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オーガスタの願い、それを承諾するということはもう二度とオードリーには戻れないということだ。この先一生をオーガスタの身代わりとして生き続けなければならない。
そんなことは不可能だとオードリーは思う。だって自分は教養も礼儀も知らない貧民街の小娘だ。裕福な王女さまの役なんてとても演じられない。それにもしニセモノだとバレたら、確実にこの命はなくなるだろう。
だがしかし、こうも思う。オーガスタの願いを拒否すれば、自分は死ぬまでずっと貧民街のオードリーなのだ。毎日毎日お腹を空かせてごみを漁り、綺麗な服なんて一度も着られず、粗末な家でひとり寂しく死んでいく。そんな悲惨な未来を想像したオードリーはぞっと血の気が引いた。
ニセモノの王女を演じて裕福に暮らすか、貧民街のオードリーのまま惨めに生きるか。
オードリーはぎゅっと唇を噛み締めて懸命に考える。この選択は絶対に誤ってはいけない。……そして、決断を下す。
オードリーは平伏するオーガスタを見下ろして言った。
「……まぁ、頭を上げてお立ちになって下さいませ。わたくしと同じお顔のあなたが平伏するだなんて不愉快ですわ」
それは先程オーガスタがオードリーにかけた言葉だ。勿論オーガスタの様に堂々と、そして嫌味っぽくは言えなかったが。
オーガスタは顔を上げて立ち上がると、ポロポロと大粒の涙を溢しながらオードリーに抱きつく。
「ありがとう、ありがとうオードリー。本当にありがとうございます」
オードリーの意図を正しく汲み取ったオーガスタは何度も何度もありがとうを繰り返した。
オードリーは決意した。貧民街で惨めに生き続けるのは嫌だ。それなら全力でニセモノの王女を演じて豊かに生きてやると。
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