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結婚式1週間前の深夜。
王都の外れにある森の前でオードリーとオーガスタは最後の別れの時間を過ごす。
「わたくしの恩人オードリー、貴女にどれだけ感謝してもし足りませんわ。わたくしのワガママを受け入れてくれたあなた、どうか幸せになって」
「オーガスタ王女殿下、わたしのほうこそあなた様にお礼申し上げます。貧民のわたしにチャンスをお与え下さったこと、誠に感謝しております。オーガスタ様こそどうかハミルトンさんとお幸せになって下さいませ」
熱い抱擁を交わす少女達の隣で、元・宮廷庭師見習いのハミルトンが頭を下げる。
「オードリー、オレ達の為に本当にすまない。感謝してる。オレは必ずオーガスタを幸せにしてみせる。……そして、将来オレとオーガスタの間に女の子が生まれたらお前の“オードリー”という名前をつけてもいいか?」
ハミルトンの申し出にオードリーはオーガスタを見る。するとオーガスタは微笑んでこくりと頷き、それがふたりの意見であることを知る。
「はい、どうかわたしの名前をつけて下さい。オーガスタ様とハミルトンさんの間に生まれる子はとても幸福な子となるでしょうから」
そうしてオードリーとオーガスタは名残惜しそうに手を繋いでいたが、ほろ馬車の御者が大きく咳払いをするので手をはなした。
ハミルトンと共に馬車に乗り込んだオーガスタは身を乗り出して声を張り上げる。
「オードリー、わたくしと同じ顔のあなた! わたくしはあなたを決して忘れません。さようなら、さようなら!」
オーガスタはオードリーが見えなくなるまで別れの言葉を続け、オードリーもまたオーガスタが見えなくなるまで彼女に頭を下げ続けた。
オーガスタという共犯者にして心の支えがいなくなったことにオードリーは涙を流す。だがここで挫けてはいられない。
「わたし……わたくしはエリュティア王国第6王女のオーガスタ・エリュティア。オードリーの名はあのふたりに譲りました」
オードリーは今一度決意する。ニセモノの王女として生きること、そしてニセモノでもいつかホンモノになってみせるということを……。
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