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夏紅樹
砂ぼこりをあげて、早馬がこちらに向かって走ってくる。
紅樹と、彼女が乗る馬を引く従者は、びっくりして立ち止まった。
「退け、退かんか!」
早馬は二頭。使者が叫びながら馬を操っている。
紅樹たちは大慌てで、道を外れ土手に降りた。
夏紅樹15歳。大きな瞳と真っ直ぐな黒髪は、人目を惹くに充分な魅力があった。それ以外は、痩せて小柄な彼女に特筆すべき点はない。
彼女の生まれた村では、女子は15歳になると成人と認められ、主婦としての修行を二、三年積んだあと他家に嫁ぐ。昨年、隣村の豪農に嫁いだ姉もそうだった。
ただ、紅樹は姉とは違い、都にある後宮に働きに出るのだ。
なんの変哲もない、地方の村で生まれ育った紅樹だが、縁あって後宮に出仕することになった。期間は3年。
都での生活に胸ふくらませる紅樹だが、その出鼻を挫くような早馬の出現に、ひどく胸騒ぎがした。
「何かしら?」
「さあ? あんなに急いでいるということは、この辺りの県令への御下知を携えているのでしょうね。都で何かあったのでしょうか」
翌日、都に着いた紅樹たちを待っていたのは、皇帝崩御の知らせであった。
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