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都下では、道のあちこちで、人々が侃侃諤諤。
「帝が御病気なんて聞いてなかったよ」
「これからどうなるんだい?」
「そりゃ、公子様がすぐ即位されるんだろうよ」
「後継は、公子様って決まったわけじゃないだろう?」
「 “定命” とかいう書物の持ち主じゃないからね」
「そういや、その書物は不思議なことに、帝がお隠れになってから、消えてしまったそうじゃないか」
「なんでも、次の皇帝になるべき方のところに現れるという不思議な書物らしいが」
不安げに噂する人々を横目に、紅樹たちは都の外れで宿を取ることにした。
「紅樹様、どういたしましょう」
従者は途方に暮れている。
「どうしたらいいのかしら。でも、ここまで来たら、後宮に行くしかないわね」
紅樹は思いつきで答えた。
このまま引き返しても、恐らく誰にも咎められないだろうし、そのほうがいいかもしれない。
しかし、折角、花の都に来ることができたのだ。
とにかく都を見てみたい。
少しでいい、都で暮らしてみたい。
紅樹の願いは、それだけである。
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