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「できてる…」
ジリジリと地面の熱で陽炎ゆらめく京都の長屋街の奥から3番目。
裏庭で、婦人雑誌の特集…プチトマトの育て方と言うのを見つけた絢音。
見様見真似で、ホームセンターで買って育てていた苗に水をやるなど世話をしていたら、今日、愛らしい赤い果実がポツンと2つできていることに気がつき、喜びの声を上げる。
命を育てる。
命を育む。
その奇跡のような営みが成功して、嬉しくて…絢音はそっと、自らの下腹部に手を乗せる。
「お母さんも頑張るから、あなたもこのコ達みたいに、元気に育ってね?」
囁き、滴る汗を拭いながらプチトマトを収穫する絢音。
開け放たれた居間の窓から夏の風が吹き込み、ちゃぶ台に置かれた母子手帳と、白黒のエコー写真が、静かにはためいた。
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