家庭菜園

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「できてる…」  ジリジリと地面の熱で陽炎ゆらめく京都の長屋街の奥から3番目。  裏庭で、婦人雑誌の特集…プチトマトの育て方と言うのを見つけた絢音。  見様見真似で、ホームセンターで買って育てていた苗に水をやるなど世話をしていたら、今日、愛らしい赤い果実がポツンと2つできていることに気がつき、喜びの声を上げる。  命を育てる。  命を育む。  その奇跡のような営みが成功して、嬉しくて…絢音はそっと、自らの下腹部に手を乗せる。 「も頑張るから、あなたもこのコ達みたいに、元気に育ってね?」  囁き、滴る汗を拭いながらプチトマトを収穫する絢音。  開け放たれた居間の窓から夏の風が吹き込み、ちゃぶ台に置かれた母子手帳と、白黒のエコー写真が、静かにはためいた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加