拝啓、届くかもわからない手紙を

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拝啓、届くかもわからない手紙を

拝啓 秋が深まり木々の紅葉が美しい季節です 拙いながら 届くかもわからない手紙を 送らせていただきたく存じます そちらから 美しい秋の色彩はご覧になれますか? つい先日まで 言葉を交わしていた方が いらっしゃらなくなると こんなにも むなしいのですね ひとは 絶えず永遠に 呼吸を続けることは できなくて だから いずれその生命を 手放すときが くるのです そんなことはわかっている 出逢いがあれば 別れがある そんなことはわかっているのです じょうずに言葉にできませんね 私はなんだか 不思議な気持ちがします 面と向かって会ったことはなくても 人の死を感じることは 私にとって まるで目の前の人を亡くしたかのように 苦しいのです 一番初めは 私の失敗からでした それでもあなた様は 私の失敗を許してくださいました もっとあなた様と お話したかった お話して あなた様の感性を知りたかった けれど結局 何を思うにしても 今の私に願えることは これだけなのです ご冥福をお祈り申し上げます 西 令草様の道行く先に 豊かな彩りがありますように 美しい自然を見たときには あなた様の名前を思い出しましょう また何十年後かに そちらの世界で出会えたら お話できると幸いです ひさかたの光となりて降り注ぐあなたの笑顔あなたの祈り 敬具
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