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夫が浮気しているらしい。寝言で知らない女の名前を呼んでいた。最初は聞き間違いかと思ったけれど「紗代……紗代」と、今夜もうわごとを漏らしている。絶対に浮気の証拠を突き止めてやる。
私は夫が起きないように細心の注意を払い、ゆっくりとベッドから起き上がり、リビングへと慎重に足を運んだ。
電気を付けずにカーテンを少し開け、リビングのソファーに座る。スマホを取り出し、月明かりだけを頼りにしてサイトを開いた。探偵事務所の浮気調査の項目をタップして、必要事項を記入していく。
夫はコロナ以降ずっとリモートワークで一日中家にいるため、私が彼に見られず秘密裏に行動を起こせるとしたら、彼の寝静まった深夜しかない。すべて終えると検索履歴を消し、静かに夫の眠るダブルベッドに潜り込んだ。
一週間後、探偵事務所から連絡が来た。パートの休憩時間中だった。急いでトイレの個室に駆け込み、内容を読んで唖然とした。浮気の証拠が何もないなんてありえない。三か月分のパート代、三十万円も出したというのに。納得できなかった私は、自分で調査することにした。
夫の交友関係を調べていくと、どうやら中学校の同級生に『紗代』という女がいることが分かった。アルバムに載っている写真のいくつかに、彼とその女が親し気に映っている。絶対にこの女だ。証拠は何もなかったが、私の中には確信に近いものがあった。
日曜日の午後、出かける前にソファーで寝ている夫に話しかけようとしたとき、また寝言が聞こえた。
「紗代……あっ、すごくいい……最高だよ、紗代」全身が沸騰し、思わず手が出そうになるのを必死で抑えて、彼の肩を揺する。「友達と遊びに行ってくるね」と言うと、先ほどの寝言などなかったかのように寝ぼけ眼で「うん」と呟いた。
まさか結婚前に務めていた会社の先輩が、紗代の中学校時代の友達だったなんて世間は狭いものだ。
彼女に夫のことを話すと、彼女はみるみると青ざめていき「ねえ。貴女の旦那さんって、名前は何というの?」と聞かれた。意味が分からずに、彼の名前を答えると彼女は黙り込んでしまい、最後に「二十年前の八月四日の新聞記事を調べてみて」とだけ言われた。
家に帰り、スマホで検索してみると『女子中学生 強姦殺人事件』の文字が表示された。被害者の名前は紗代。犯人は同級生の仲が良かった男の子だという。「何見てるの?」うしろから死神の声が聞こえた。
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