大あざの天使

1/1
前へ
/10ページ
次へ
 我が家の四人掛け机は、常に未完成である。 「海音(うみね)、トマトも取りなさいって」  前の席の母が、大皿のサラダを指す。 「じゃあ父さんは行くよ」  斜め前の父が、空のコップを置き立った。三人分の声で父を見送る。 「お兄ちゃん、サラダのおかわりはー?」  私の隣には、誰もいない。 「いる。取りに行くよ」  歳の離れた兄は、いつも離れのソファで食事を摂る――正しくは、顔の見えない位置で食べた。  皿を携えた兄が、丁寧な手つきでサラダを盛り付ける。じっと見つめた瞳が――狐の面が笑っていた。  兄は人前で、面をつけたまま暮らしている。  その理由を、私は聞きそびれたままでいる。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加