お面の向こう側

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 知ったところで、きっとバタフライ効果すら生まれない。しかし、心が納得できなかった。兄の横顔と接する度、密かに面を突きたくなる。もちろん、損害しかないからしないけど。あ、今日の面は新入りだ。熊かな。 「海音、何かあった?」  角度を変えた面が私を見る。丸い瞳が、想像力で補完された。慌てて、上の空になりそうな理由を手繰る。 「あー、文化祭の出しもの考えてたの。明日クラスで決めるんだけど、食品も扱っていいから迷う」 「海音、スイーツカフェとか好きそうだよね」 「めっちゃ好き! パンケーキとかいいなぁ!」  上手く行った――転がっていただけの理由を、適当に膨らませる。 「うちの学校、規模大きいからめっちゃ楽しいんだよ! お兄ちゃんも一回来……」  早々と萎ませたけど。 「そうだね。でも、僕はお土産話でもう楽しいよ」  小さな戸惑いが伝わってくる。上手いこと、会話を継続させようと努めているのが分かった。  ここで流せばよかったのに。真実を求める心が、伸ばした手を引っ込めようとしない。 「…………あのさ……お面って、やっぱりまだ外せないの……」  しかも、気を遣ったつもりが、逆に棘を持つ台詞を吐いてしまった。後悔も束の間、面の下方から雫が現れる。顎髭でも摩るように、手を当てた兄はまたも戸惑っていた。 「ご、ごめん! 久々に見たいなーっと思ってね! 駄目元で言ってみただけだから! あ、ご飯炊けた! 混ぜるね!」  炊飯器が助け舟を出す。しゃもじを握った私は、切り出したくせに逃げた。
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