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◇◇◇
「絶対に嫌よ!」
甲高い声が王宮に響いた。
廊下を歩いていたネーレの足が止まる。声のほうに視線を向けると、そこにいるのは愛らしい一人の少女。彼女は自分をなだめようとする侍女やメイドたちを振り払う。
「大体、どうしてこの私が『呪われた王子』などに嫁がなければならないの!」
耳に残りそうなほどの大きな声に、ネーレは頭を抱えそうになった。
(国のために嫁ぐことが、王女の務めでしょうに)
少なくともネーレはそう考えている。
ずっと昔。幼いネーレに言い聞かせるように、母は何度も何度もネーレに説いた。
『いいかしら、ネーレ。あなたは王女なの。望まなくても王女である以上、国のために動き、国のために死すのよ』
母は小さな男爵家の生まれで、王宮に侍女として出稼ぎに来ていた。
真面目な働きから王妃付きの侍女という名誉を賜っていたものの、国王の目に留まりお手付きとなる。
たった一回、関係を持っただけだった。が、望んでもいないのにネーレを孕んだ。
ネーレの母は慎ましく穏やかに暮らすことを望み、目標としていたのに。ネーレを孕んだことにより、王家のごたごたに否応なしに巻き込まれてしまう。
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