カーリーは鉢植えの外

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 ***  世の中、向き不向きというものはあると思うのだ。裁縫や料理の仕事に、手先が不器用な奴は向いていない。コミュ障陰キャな奴に、接客業は向いていない。単調作業が苦手な奴に工場の軽作業はさせられないし、集中力がすぐ途切れて感情適任なりがちな奴にトラックの運転手は任せられないだろう。  だがしかし、時には親がその適正を無視して子供の将来を決めてしまうことがままあるものだ。  この学園に入った生徒の中には、ユグのような者も珍しくないのだった。ここはある特別な職業を育てるための専門の学校であり、その重要度を加味すれば適切でない生徒を入学&卒業させるリスクなどわかりそうなものなのだけれど。  ユグは、人としてはけして嫌な奴ではない。色々な遊びを思いつくし、話は面白いし、友達もたくさんいる。だが、飽きっぽいのでこの学園で目指す仕事が向いているとは思えない。もう少し庶民的な職業を目指した方が、絶対本人のためだと思うのだけれど。 「……まあ、さすがに先生も駄目だと思ったんじゃないかなあ」  あははははは、と苦笑いをするユグ。 「この課題ちゃんとやらなかったら、補習地獄にするぞって言われた」 「つまり、宿題を出されたと」 「そう。でもって、結構手間がかかるやつやらされてるんだよね……」  ほら、と彼は立ち上がり、バケツの中を指さした。なんだろう、と思って俺もその中を覗き込む。  てっきり水が入っているのかと思いきや中に詰まっているのは大量の土だった。むしろ、土以外何もない。 「ナニコレ?」 「植木鉢」  ユグは肩をすくめる。 「これちゃんと育てて、記録つけろって言われた。……どれくらいかかると思ってるんだろうね、先生も。超時間かかるじゃん。その間、ろくに遊びにも行けないってのにさあ……」 「そもそもなんで土をバケツに入れてんだよ。ちゃんとした鉢植えにしろよ」 「だってこの間三個くらい落として割っちゃったんだもん。もうバケツしか残ってなくて」 「おっまえ……」  本当に駄目な奴。俺は頭痛を覚えつつ、中の様子を観察した。現時点では本当に土しかない。恐らく中には石とか肥料とか、必要なものは他にもいろいろ詰まっているのだろうが。  しかし、本当にバケツで育てて大丈夫なのだろうか。そもそも、土が既に乾き始めているような。 「これ、育ててるのって“アレ”だろ?……時間はかかるけど成長は結構早いやつだぞ。土もう乾いてるし、水やらないとダメだろ」 「あ、忘れてた」 「見てるだけじゃ駄目だっつの。それと、水のやりすぎも駄目だからな。バケツにしちまったせいで水はけが悪いんだから、本当にほどほどにしないと土が泥になっちまうからな。場合によっては土ごと腐る」 「うえええ、めんどくさい」 「この時点でめんどくさいとか言うなよ、まだ水あげて日に当てるだけの段階だろーが!」  ぐりぐりぐり、とユグのこめかみを両こぶしで抉る俺。いちゃいー!と少年は叫んで両足をばたばたさせている。 「補習が嫌ならちゃんと面倒見る!でもって記録つける!……多少は俺も手伝うから」 「ういー……」  本人は実に面倒くさそうに、奥からじょうろを持ってきた。洗面所で水をくむと、じょぼじょぼじょぼ、とかけ始める。  机の上でやると零した時厄介だぞ、と思ったが時すでに遅し。飛び散った水が参考書にかかり、彼は悲鳴を上げることになったのだった。
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