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さすがのユグも、今回ばかりは多少危機感があったらしい。翌日も何となく部屋を覗いてみれば、バケツの中を覗き込んで日誌を付けている姿を目撃することになったのだった。
「あ、カーリー!」
彼は俺の存在に気付くと、顔を上げて言う。
「せっかくだから見てってよ、僕の宿題!ちょっとだけ育ったんだから!」
「おう、どれどれ?」
確かに、バケツの中には変化が表れていた。うっすらと土の上に、コケのようなものが生えている。そして中央には双葉がにょっきり芽を出していた。小さいが、かなり丈夫そうな芽だ。俺は少しだけほっとしてしまう。
いい加減すぎるユグのこと、水をやるのを忘れるくらいのことはやりかねないと思っていたのだ。当たり前だが、水をやらず日にも当てなければ育つものも育たない。コケと芽が生えてきたということは、少なくとも昨日今日は真面目にお世話を続けているということらしい。
三日坊主にならない、とまだ言い切れないのが怖いが。
「肥料少し増やした方がいいかもな」
俺は中を観察しながら言う。
「あと、太陽の光は……昼の一時間だけ当てるとかがいいか?長く当てすぎるのも良くないからな」
「そうなんだよね。すーぐ焦げちゃう。かといって、ずっと日陰に置いておくと凍りそうだし」
「こいつの世話は普通の植物と同じじゃ駄目だからなあ。……何にせよ、あと一週間は毎日丁寧に世話しないといけないだろうな。授業の時間以外はずっとこいつ見てろよ」
「わーん遊びたいのにー」
「普段からサボりまくってるお前が悪い。自業自得」
「びえー」
それでも、文句を言いつつもユグは頑張っていたようだ。二日目にはコケが全体を覆い、端っこには水たまりもできていた。芽も大きくなり、複数生えてきて小さな花も咲かせていた。
三日目にもなれば半分くらいが水たまりになっていて、残り半分の中では微生物らしき小さな影が動いているのが見えた。三日間でここまで育ったともなれば、かなり順調である。いろいろな花や石が出現し、微生物の数も増えていく。このままいけば、多分一週間くらい後にはかなりにぎやかな鉢植えとなっていることだろう。さすがにそこまで頑張れば、先生たちも課題クリアとみなしてくれるのではないだろうか。
が、結局のところユグはユグなのである。四日目くらいから、明らかに飽きてきているのが見えていた。水を上げるのを忘れかけたり、日に当てるのを忘れたり。五日目、六日目。俺がやや危機感を覚え始めていた時のことだ。
「悪いけど、そこの攻撃は通さないからな!はい、トラップ発動!」
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