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カーリーは鉢植えの外
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
何やら呻き声が聞こえる。それも、まるでトイレで踏ん張ってでもいるかのような声だ。
一体なんだなんだと思って俺が身に行けば、ある部屋のドアが開けっぱなしになっているではないか。どうやらドアを閉めるのも忘れて何かに熱中しているらしい。
この寮ではたくさんの学生が生活している。304号室の部屋は一人部屋だったはずだ。
覗き込めば案の定、その部屋の学生であるユグが、机の前に座って一心不乱で何かを覗き込んでいるではないか。
最初、それはバケツか何かだと思った。青いプラスチックの円柱に、取っ手らしきものが見えたからである。
「何してんだよ、ユグ」
「ひああああああああああああああああああああああああ!?」
俺が声をかければ、彼はひっくり返った声を出して椅子から転げ落ちた。どったんばったんどしゃん!と大きな音が響き渡る。何もそんなびっくりしなくてもいいものを。
「すみませんごめんなさいちゃんとまじめにやってますサボりたいなんて思ってませんマジできちんと今度は宿題しますちゃんと頑張りますいいこにしてますだからもうお尻ぺんぺんの刑はやめてくださいお願いしますうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
「わかった、わかったから落ち着けユグ。俺だから。先生じゃないから」
「んひゃ!?」
頭を抱えて一通り叫んだところで、ようやくユグは相手が俺であると気づいたらしい。
青い目を何度かぱちぱちした後で、はあ、とため息をついたのだった。
「な、ななな、なんだ、カーリーかあ。……また先生が様子見に来たのかと思ったぁ」
「何でそんなにびびってんだよお前。つか、お尻ぺんぺんされたのか?もう十二歳なのに?」
「ううううううううううるさい!カーリーは優等生だから知らないんだよ!エルモ先生のお尻ぺんぺんマジで痛いんだからね!?お尻が爆発するかと思うくらい痛いんだからね!?」
「むしろ何でそこまで怒らせたのか知りたいわ……」
エルモ先生は俺達の担任の先生の一人でもある。俺と話している時はいつもニコニコしているし、そんなに怒る印象なんてないのだが。
「宿題を三十回くらいすっぽかして、寮から四十二回くらい逃げ出しただけだよ!」
ユグはあっさりのたまう。
「ちょっと宿題すっぽかしたり、買い食いするために寮から出ただけなのに酷いと思わない?お尻ぺんぺんなんて!」
「むしろ、よくお尻ぺんぺんで済ませて貰えたなオマエ……」
俺は呆れるしかない。確かに、ユグはサボり癖の強い生徒として有名だった。先生達も手を焼いているだろうなとは思っていたのである。
だがしかし、まさかここまでアホを繰り返していようとは。そういえば、こっそり立ち入り禁止の屋上に入るとか、入っちゃいけない学園裏の墓地で肝試しをやったとか、学園長先生のカツラを隠したとか他にもいろいろ伝説があったような。
「なんでお前が退学にならないのか知りたい」
俺が呆れて言うと、ユグは多分ーと間延びした口調で言った。
「パパとママが莫大な寄付金を収めているからだと」
「どうしようもねえなオイ!」
こんなんでいいのかコイツ。俺はこめかみを押さえてため息をつくしかなかった。
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