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1章
桜の花びらが、くるくると舞っては地面に落ちていく。
中庭に置かれたベンチに腰をかけ、優しい風と温かな春の日差しを存分に浴びながらその刹那の美しさを眺めているだけで、穏やかな心地よさが心身を包み込んでくれる。
「…ふう」
先程までの焦燥なんて忘れてしまうほどに居心地のいい空間に身を委ねていると、段々と瞼が重くなり、視界が暗闇に覆われる。
「─優和!」
聞き馴染みのある声が私の名前を呼んだことで、沈みかけていた意識は一気に引き戻され閉じていた瞳を反射的に開く。
「こんな所で何してたんだよ」
「…翼」
思ったより近くにいたらしく、眼前に迫る翼の表情を見て、私はベンチの背もたれにゆっくりと体重を預けることにする。
「…優和。俺とお前も、今日で幼馴染歴9年目を迎えるわけだけど」
「えっ。すごいね、時の流れ」
「そう。だからさすがに、俺が今お前に言いたいこと…わかるよね?」
腕を組みながら眉間に皺を寄せる翼は、相当怒っているらしい。
⋯まずい。
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