10章

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相原に誘われるがまま後ろについていくと、ホテルの誰も居ないちょっとしたカフェスペースみたいな所で、自販機で飲み物を買って1本こちらに渡してくる。 断るのもなんだか居心地が悪い気がして、黙って受け取る。 相原は受け取るのを見ると気にすることもなく缶ジュースのタブを開けて、口の中に流し込む。 相原と2人で話すことなんて無い。 だからどう話を切り出して良いかもわからない。 「…気付いてたんだろ。木更からの気持ちは。」 「…そうだね」 「だよな、お前鈍そうでもないし。」 中々本題に入られないのがもどかしい。 君と話してる暇があったら今はまず優和の誤解を解きたい。 こんな所で君と話している時間は無いんだけどな。 「お前、結構我儘って言われない?」 「何の話。」 「自分はいいけど他人は許せないみたいな所あるの、自覚ある?」 「はっきり言ってくんない?遠回しな言葉はいらない。」 そう言うといつもの爽やかで明るい表情は微塵もない。 それどころかうちに秘めている怒りが漏れているようなそんな表情でこちらを見る。 鋭い目つきが刺してきていて、俺もただまっすぐに見つめ返す。 「大事に出来ないなら返してくんない?俺が幸せにするから。」 わかってた、相原が優和を好きなことくらい。 それでもずっと近くで優和の幸せを願い続けてきた人物。 好きだとも言わずずっとずっと傍に居た。 「…返しても何も、決めるのは優和でしょ。」 「手放せって言ってんだよ、俺が攫ってくから。」 手放すとか、そんなの…できるわけ無い。 あの日彼女の姿を見たときから暗かった目の前が明るくなったような気分だった。 自己紹介していたあの瞬間少しだけ目が離せなくなったけど、その時はそれだけだった。 彼女という人間を知ることによってどんどん目は離せなくなって…。 今俺は彼女を手放したらまた元に戻ってしまうんだろう。
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