10月6日 本仲間の会

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10月6日 本仲間の会

「本ってさ、ウイルスみたいだよね」と智哉は言い、手に持った本を振った。「ウイルスは遺伝情報とそれを守る殻しか無い。だから生物と定義しきれない。自己増殖できないからね。増殖する時は人間とか宿主の細胞に入り込んで、自分の遺伝情報を流し込む。そうして宿主の細胞の力を使って自己増殖する。本も内容とカバーがある。読んだ人の頭の中の経験や知識を使って自己表現をしている、似てるだろ?」 「ふふ。本を広めあってるのは感染させあっているって事なのかな?」と瑞希が笑った。「読みたい衝動は感染症だったのね。中毒だと思ってた」  ここは駅前の喫茶店。コーヒー1杯で長居ができる事が魅力の店だ。  私と智哉と瑞希の3人は高校時代に予備校で出会った。高校や大学と言った普段の人間関係とは違う、宙に浮いたような、不思議な距離感の関係だ。そんな関係が心地良く、それぞれ別の大学に進んだ今も交流がある。私たちを結びつけているものは本だ。  私たちは息を吸うように本を読み、そしてそれを誰かに語り合いたい。そんな本仲間だ。  月初の日曜日にこの喫茶店に集まる事になっている。  3人で唯一、独り暮らしをしている私の部屋に集まった事もあったけど、目の間に本棚があれば、私たちは話す事を止めて読み耽ってしまう。だから集まるのはこの喫茶店だ。    運命の1冊は何か?と言うテーマで話しあった事もある。私と瑞希は文豪の名作を挙げたが、智哉は最近の作家の作品、それも地味な作品を挙げていた。  智哉の運命の1冊について閃く事があったのだが、迂闊にもそれは随分と後になってからだった。
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