0人が本棚に入れています
本棚に追加
渚くんが星那さんに何か言いかける。
「……やっぱり、なんでもない。
バイト頑張ろうな。
知らせてくれてありがとう」
でも結局、何も言わず電話を切った。
あたしは、そっと音を立てないようにその場を離れて教室に戻った。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「かーえでっ!おはよー!」
教室に戻ると、友達の梓が声をかけてくる。
「おはよう!」
さっきまでのことを隠して、あたしは明るく笑顔を見せた。
梓は私の隠した想いを気づくことも無く、鞄から取り出した雑誌を広げている。
「ねぇねぇ、楓
学校終わったらここ寄らない?」
梓が指さすページを見る。
雑誌のページに写るこじんまりとした洋風画のお店。
〘カフェ harukaze〙
紹介された記事を読みながら、あたしはじっと見つめていた。
美味しそうなパンケーキやコーヒーなど、メニューの一部が紹介されている。
オーナーのメッセージも読み合わせていると、渚くんが教室に戻ってきた。
「あ、柏木おはよー!」
「速水おはよー」
梓は、親しく渚くんに挨拶する。少し羨ましい。
渚くんは、席に座るとまたスマホを触り始める。
その内、男子のグループに囲まれて、楽しそうに談笑を始めたのを、少し遠い目であたしは見ていた。
「楓ー?ここ行くの?」
梓に呼ばれ、はっと元に戻る。
「え、あぁ、うん!行きたい!」
「OK!じゃあ、放課後行こうー!」
楽しそうな、梓はあたしにお構い無しで色々喋っている。
ハイハイと相槌を返しながらも、あたしの目線はやっぱり渚くんに向く。
その眩しい笑顔をあたしにも向けて欲しい
そう思ってしまっていて、胸が少し苦しかった。
最初のコメントを投稿しよう!