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限界。私の中の理性がその言葉を叫ぶたびに、もう片方で長年育まれてきた教育熱が激しく燃え上がり、限界の二文字を焼き尽くしていく。
限界は超えるためにある。人は限界を超えることで成長する。もっと熱量を上げて、愛を込めて、彼女を育てるのだ。それが私の使命だから。
「ねぇ君。聞いてほしんだが、私は君のためにやってるんだよ。これを乗り越えれば君はもっと成長できると信じてるんだ。」
「わたくしが今からご案内するのは、シニアにおすすめなeコマース株で・・」
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しばらく反応を待ってみたが、彼女は壊れた機械のように延々と同じセリフをループしている。私もまた彼女に構わず話を続けた。
「私はね。人を育てるということは、人に対して諦めないことだと思ってるんだ。人間はいくつになっても、どんなに失敗しても成長できる。私の仕事は部下に課題を与えること、そして挑戦する機会を与えることだ。失敗も学びの一部であり、失敗してやり直すからこそ学べることが多い。何回失敗しても挑戦する姿勢がある限り人間は成長できるのだよ。だから、成功を信じて挑戦させることが上司たる私の使命だ。君がこうして練習を続けてくれてることを本当に誇らしく思う。」
「わたくしが今からご案内する・・・シニアにおすすめなeコマースかぶぶ・・・」
彼女の声が少しばかり淀んだ。屋外にいるようで時折周囲の雑音が入り込む。
私は一層熱を込めて言った。
「ああ、セリフが詰まってしまったね。ゼロからやり直しだ。でもいいよ。こうした失敗にめげずに挑戦することが大事なんだ。やり遂げるまで私はトコトン付き合おう。この電話でそのまま続けようか。さあ、再チャレンジだ。」
「わたくし・・・・今からご案内・・・シニアにおすすめ・・・eコマースかぶ・・・」
「残念!またゼロだ。けれどもその挑戦する姿こそ美しい。さあもっと、もっと繰り返すんだ!」
「わたくし・・・・今からごあ・・・シニアにお・・・eコマースか・・・」
「どうした?カウンター止まってるぞ。君には乗り越える力があるはずだ。君のことをずっと見てきた私にはわかる。君ならできる!」
「わたくし・・・今からご・・・シニアに・・・コマース・・」
「あきらめるな!君を信じてる!私は君を育てきるまでどこまでも追っていく!さあァ続けろォォ!がんばれェ!負けるなァアア!!」
わずかに間が空いたのち、強い風の音とともに彼女の掠れた声が聞こえてきた。
「わたくし・・今から・・シニ・・マース」
了
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