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「わたくしが今からご案内するのは、シニアにおすすめなeコマース株で・・」
広いコールセンターの一画。私のデスクから見えるブースでは電話による投資営業が行われており、何度も同じフレーズが飛び交っていた。
冒頭のセリフを言い終わらないまま節電されることがほとんどだ。それでもチームのメンバーたちは淡々と電話をかけ続けている。ベテラン勢が機械的にフレーズを繰り返す中で、最近入った新人の若い女の子が電話に向かってペコペコと頭を下げていた。
「わたくしいっ、いまが、いまから・・おすすめが・・・いえ、そんなつもりは、はい、すいません。え?上司?その、えっと・・」
チラチラと私の方をみてくる。私はジェスチャーでこっちに電話を回すよう指示をした。手元の電話のランプが光り、ボタンを押して受話器をとる。
「はい。お電話かわりました。ええ、左様でございます。はい、お客様の仰る通りでございます。誠に申し訳ございません。しっかり教育させていただきます・・・」
怒鳴りちらすお客様に対してひたすら謝り倒し、落ち着いたところで静かに受話器を置いた。
新人は自席に座ったまま申し訳なさそうにうつ向いている。壁に貼られた営業成績のグラフを見るとダントツでその子だけ数字が悪かった。恐らくこの仕事に向いていないのだろう。
しかしだ。今のベテランたちも最初はそんなものだったが、しっかりと教育を施したことで今のような好成績を叩きだしている。立派な営業に育てるのはチームリーダーである私の仕事だ。
私は席を立って新人の側に行き、声をかけた。
「今日は調子が悪いみたいだし、いったん仕事は中断しようか。向こうの研修室で私と一緒に練習しよう。」
新人はどこかホッとした表情で頷いた。解放されたとでも思ったのだろう。周囲にひとしきり頭を下げたあと、軽やな足取りで研修室に向かった。その姿を見届けたベテランたちのひそひそ話が聞こえてくる。
(始まったよ・・)
(かわいそうに・・)
私はそれらの声を無視し、1枚のプリントを机から取り出して研修室に向かった。
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