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   ローズマリーは悠然と紅茶を啜る。    虹野はプっと噴き出し、手を叩いて笑う。 虹野「まさか。受けた依頼は死んでも作り上げる。それが芸術家のサガだよ」    黒電話が鳴る。 虹野、ローズマリーは一斉に電話へ振り返る。 ローズマリー「さて、さて、間の悪い闖入者(ちんにゅう)は、愚者の狼狽と相場が決まっています」    ぶつぶつ言いながら、黒電話へ向かい受話器を取り、ローズマリーは虹       野へ振り返る。 ローズマリー「警察です」    虹野は嘆息。 虹野「よからぬ文言は、口に出すものじゃないね」 〇タイトル 「血気のシンフォニア」 〇音楽ホール・中    T「一年前」  (T=テロップ)    舞台上にはオーケストラと指揮台の緑山隆(55)。    指揮台の緑山に子供が花束を持って来て、隣にアナウンサーとテレビカ    メラもやってくる。 アナウンサー「アカデミー賞、最優秀音楽賞を受賞されました『トワイライト・フーガ』でした」    観客から拍手が送られ、マイクが緑山へ向けられる。    緑山、笑顔で会釈すると、マイクに入るほど大きなため息。 緑山「この道を歩み五十年……やっと、限界に到達する曲が書けました。これで心置きなく……引退できます」
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