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緑山「いや、そっちじゃないね。体が覚えている」
歩き出す緑山を駅員が止める。
駅員「こっちですって!」
緑山「いいや、こっちだ。この先に切符を入れる白い箱があるはずだ。無人の時間はそこへ切符を入れておけばよいのだろ」
駅員「いつの話ですか!」
緑山、毅然と駅員へ振り返る。
緑山「40年前だ」
駅員「ここを建て替えたの、20年前ですよ?」
緑山は駅を見回す。
緑山「なるほど。変わらないのは、私の記憶だけか」
緑山、改札の方へ去っていく。
首を傾げる駅員。
駅員「変わった人だ」
〇タクシーの中
後部座席で窓に頬杖をつき、景色を見ている緑山。
緑山「無くなるものもあれば、変わらないものもある。ほら、あの茅葺き屋根の家、品の良いご夫婦が住んでいたはずだ」
運転手「一昨年、テレビ番組かなんかで葺き替えてましたね。中は古民家喫茶? とかやってますよ。コーヒーが美味いと」
緑山、真顔になる。
緑山「ふーん」
〇海辺の断崖
道沿いにタクシーが止まり、緑山が下りてくる。
鞄一つで下車して、海を眺める。
緑山「さすがに、ここだけは変わらないだろう」
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