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【第1章】
その数時間前。
家に帰ったらそんな事態が待っているとは夢にも思わず、私は慣れた職場で、いつもの仕事に打ち込んでいた。
「相崎さん、悪いけどこれもお願い」
「わかりました!」
営業の人が持ってきた、受注関連の書類の束を受け取って、元気よく返事をする。
そうすることで気合いを入れ直し、なおかつ場の雰囲気を盛り上げることを心がけていた。
株式会社クロウヂングプロダクツ。
アパレル業界では大手の、オールクロウヂンググループの中の1社で、ボタンやジッパーなどの部品製作および販売が主な業務である会社。
私、相崎明花はそこの営業部で営業事務をしている。
入社後の3年を総務部で過ごしてからの異動だった。
総務でも営業でも、事務担当だと必然、雑用係も兼務になる。部内や来客へのお茶出しとか片付けとか、備品管理とか。そういう雑務を面倒がる人もいるが、私はそれらの事柄もわりと好きだった。通常業務の息抜きになるし、べったりデスクに貼りついているよりずっと良い。
まあそんなふうだから、総務時代も今も、いつの間にか「お茶出しは相崎さんに」という不文律ができあがってしまっていたりするのだけど。
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