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「相崎さん、ちょっといいかな」
所属する1課の課長が近寄ってきて、そう声をかけてくる。たぶん、と思った予想は数秒後に裏付けられた。
「もうすぐ客が来るんだ。フェアルート商事の営業担当常務と新しい部長が。来たら応接室に案内して、4人分のお茶を出してほしい。お茶菓子はいらないから」
「承知しました」
「忙しいとこすまないね」
「いえ、大丈夫です」
デスクの書類の山を見てか、表面上だけではなさそうな「すまないね」を言う課長に、私は微笑んでみせた。受注入力の速さには自信がある。量が多ければ多いほど燃えるのが私の性質だった。同僚からは「営業事務向きの性格だね」とよく言われる。
タカタカとリズム良く、社内受注ソフトを立ち上げた画面に注文情報と希望納期を打ち込んでいると、ほどなく受付から来客の連絡が入った。エレベーターで5階まで上がってきてもらうよう告げて、席を立つ。
営業部フロアの入り口に着くのとほぼ同時に、目の前のエレベーターホールに、二人の男性が姿を現した。
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