信繁の悲劇的過去と幸福な現在について

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信繁の悲劇的過去と幸福な現在について

特殊監獄「城」所長である城主、秘された本名”紫” 彼女はいよいよ帰国の途に就く、銀に近いプラチナブロンドに菫色の瞳、見事な容姿をマスメディアから「銀河1美しい」と評される王太子〜 惑星デメテルの周回軌道上にあるコロニー都市D-01の王族、おそらく王家最後の世継ぎとなるであろう王太子クリストファーを連れ、足早にとある格納庫に案内した 所長の小さな顔はどうみても相変わらず10代半ばのジャパンの女子高生、王太子よりもやっぱりうんと年下にしか見えない   清楚なクッキリとした切れ長の二重の瞼 縁を取り囲む、ゆらりと悩ましげに揺れるまつげ コロニー都市Dー01で珍重され高額で取引される黒真珠よりも遙かに艶のある濡れたかに耀く瞳 高揚した薔薇色の頬、ぷるると形良く動く綺麗な唇、隙間より微かに覗く白玉の歯 小さな顔、長い手足 どこもかしこも極めて美しい クリストファーことクリスは想像以上の広域な空間に目を見開いた 「うわぁ……!」 「この他にも幾つか実はございます ですが案内はご勘弁下さいね?」 「え?!まだ他にもあるんですか!」 「当然です ここはそういう、言ってみればこの世とあの世の狭間の超常空間です 亜空間故、何だって出来ますしイザとなれば如何様にも何所までも拡張が出来ますから」 城主はクスクス面白げに笑う 『それにしてもーーー…大きいや』 頭を上げ見上げると天井が遙か彼方に遠く感じる しかし角度を変え普通に直立し立った状態で真っ直ぐに前方の遠くを見ると何故だか直ぐ側にも見える 『どこか遠近感が変だ』 そんな巨大空間には数基の様々なタイプのヘリと飛行艇が納められていた 『あれは一体何??』 彼はその中の1機のヘリに思わず心を奪われた 別に「見つけたっ」という程の事でも無く、ごく自然にスゥ……っといつの間にか視線が向いたのだ 『なんだろう…?』 機体が大きいと言えばーーまぁ大きい でも巨大というわけでも無い   もっと大きな目をひく車両輸送用とおぼしき回転翼機もチラホラ格納庫内部に存在した だがしかし余りにもそれの形状は美しくユニークだった スマートな機体ながら他を圧する威圧感と圧倒的な美 どの機体とも全く似ていなかった 魂を丸ごと奪われそうな強烈な個性   気持ちがグイグイ引き付けられる クリスの警護役と言うことで付いていた信繁は先程 「今回の出発のための身支度を整えますから」 彼等2人と別れ別行動になった 生憎付き添っては居なかった 格納庫には城主と王太子以外では、常駐するつなぎとキャップ姿の整備員達、工具片手キビキビ動き回る彼等他は誰もいない 「!……城主」 人の気配を察して ハッと顔色を変えた彼らは2人の姿を見て全員直立不動、一斉にサッと頭部横に掌をやり敬礼した 「そのままで楽にして良いわ 今やっていた仕事を続けなさい」 城主はにっこりと柔らかな微笑みを浮かべ敬礼はいいと促した 遠くに居て持ち場の作業をする人員にもアイコンタクトで同じく合図を送った 「王太子様は体調は如何ですか?」 「取りあえずは 先程からこちらにはお見苦しいところばかりお見せし、様々にご心配をお掛けして申し訳ございません」 「いえ〜こちらこそ ここはなかなか普通の方にはストレスが大きな場所です あの屈強な信繁も施設に来た当初はかなり参って居た様です 本人曰く、亜空間の歪みがキツかったようです」 「ーーー…ぅそ」 クリスは驚きの余り綺麗な菫色の目がまん丸になった そんな素直で飾らない様子に城主は面白げに微笑んだ 「あのぅ あそこにある黒曜石に似たピカピカの外観のヘリ、随分変わった外見の機体ですね」 城主は『?』  怪訝そうな顔で振り向いた 「表面が 黒い輝く鏡みたいです あれ程に美しいヘリコプター生まれて初めて拝見しました」 王太子は興奮で瞳をキラキラ輝かせホゥッと頬を紅く染める 「矢っ張り男の子ですねぇ 本能でああしたものが先天的にお好きなんですね でも”外の人々”にはご内密に 勘が良い航空機〜兵器関係の方に聞かれると後々色々と面倒ですので あれは調整したばかりの新兵器搭載ヘリ 『量子ステルス』〜 ぁあ、こう言えばうんとわかりやすいかしら? 光学迷彩付き特別の回転翼機なんです 装置を作動させれば肉眼で目視不可能、一切見えなくなります 便宜上  我々は『実験機』と呼んでいます でもまだ色々と不安定で更なる開発が必要ですね 乗りこなすのが難しい気難しい機なんですよ」 「!!では誰が機長なのですか?」 「選抜された主席テストパイロットは信繁です」 城主はフフフと嬉しげに笑って返答をした   「では このヘリ内部に入ってお待ち下さい ”あの美しいヘリ”で無くて申し訳ないのですが? でも操縦者〜 王太子様を万全にお送りするパイロットは信繁です 期待して下さいな 大変にいい腕ですよ 彼はもうすぐ間もなく貴男の元に来るはずです」 王太子はそれからしばらくはポツンと、ひとりきり 1人ぼっちだった 王太子クリストファーは格納庫ヘリにスライドドアをガラリと開けて乗り込んだ後、機内の内部シートで小さく丸くなりぶるぶる震えていた 大見得を切ったものの今後襲い来る暗殺団、怖いものは怖い そうこうしている内に信繁が訪れた 「クリス様、お待たせ致しました 遅くなり済みませんでした」 「!!」 確かに遅く感じた しかしどうやら、それでもかなり慌てて着替えて来たらしいと信繁の声の調子から感じた しかしクリスは信繁を見た瞬間ぽかんと口が開きそうになった 『うわーー……』 格好いいッッ!! 彼の着用する現在の厳つい”パイロットスーツ” 特殊な戦闘服姿は目が覚めるような 俊敏なオーラ全開だった 『ギッシリ大勢の、例え同一装備の隊員内に混じっていたとしても一目で判別できそう!』 つまりそれはもう、王族として常日頃制服組を見慣れたクリスですらうっとりと溜息が出そうな程ワイルドかつ美麗な姿 破壊的な色気すら発散させる強烈で野性的な姿だった 実用的な航空機専用の戦闘服は、着用者のしなやかな身のこなしを一層華麗に引き立てる役目、俊敏に行動できるような機能が求められ、かつ空気が薄い上空でブラックアウト、パイロットが気絶しないようにする工夫と性能を持っている その上で極限まで無駄がそぎ落とされたタイトな工夫が付与されている 信繁の持つ潜在能力を見る者により強く、より圧倒的にアピールしていたと言った方が正確かも知れない   言葉を無くす程のパワーを放つ美しい風貌 ここまでの別格の男性を初めて見たと感じた 「どうかされましたか?」 カチンと一瞬で石のように固まってしまったクリスの様子に不審そうな、けれど眉を下げ困ったような気遣いを見せる表情がコレが又 瑞々しく麗しく眩しい   『女性よりも綺麗って絶対反則技だよ!』 クリスは心の中でブウブウ、信繁に抗議した  
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