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「なるほどねーーー……」
信繁はふ〜んと事情を全て聞くと、急に雰囲気が劇的に柔らかに変わる
先程の人食い虎かと怯えた、ほとばしるおぞましい暗く異様なオーラは今や微塵も無い
と、すらり長い腕をおもむろに組んだ
何をやっても羨ましくなるほど所作がキラキラで美しく決まっている
嫌みが無いところが逆に凄い、実に天晴れだと男達は思わずボヤッと見惚れる
『やっぱりどっかにいる神様は依怙贔屓しすぎだ!』
ーーーいや居ないかも?!
ふぬぅぅぅぅ、その場の隊員達全員もれなく醜い嫉妬の嵐、心で泣いた
なのに
なのになのになのに!!
当の信繁はつれなくこうぶった切る
「今は俺はそんなことに興味はないぜ」
フンとぷいっ〜ッッ、あさっての方角にそっぽを向くではないかッッ!!
『ぅっコノヤロ〜〜〜!!』
許すまじ
しばいたろか?
クッソどついたるねん……と言う言葉が喉元に出かかった、が〜
今自分達が目の前にしている信繁という男は高校生の時代、全ジャパン学生連 某武道、部を3年連続チャンピオンに堂々導いた伝説の強豪校の中核選手、男子キャプテンであった
やさぐれし時代の喧嘩三昧の逸話はちょろっと聞いただけでガクブルで恐ろしかった
スポーツでも実践でも任侠道を極めし信繁を相手に、堂々勝てる気がするメンバーは誰もいない
〜ぶっ飛ばそうにも、ヒヤヒヤ命が惜しかったから必死に耐える
だからこう思うことにした
『フフッきょーの事は大人だからさ?一応勘弁したる!』
『覚えてろ信繁っ!』
『ふっふっふっふ〜
なーに大勢対一人だなんて卑怯な勝負を紳士な俺達は先送りしただけさ!
良かったなっっ、お前を見ているギャラリー前で無様な負けっぷり〜
信繁も幻滅されたくないだろう?』
所謂”酸っぱい葡萄”ーーー
心の中で全員が全員、まるでハンコでペタペタ押したかの似たような事を呟く
特殊部隊精鋭、誉れ高き「信繁班」を率いるリーダー
しかも現職場においての特別武術教師〜
今や100名以上の名だたるつよつよで優秀な弟子を持つ師範、れっきとした流派支部長・正規資格の肩書き付き
正直ピラミッド最高頂点に立つ信繁にとってこの程度の自分達の人数における負荷など子どものお遊戯会だ
しかも作戦におけるテロリスト殲滅現場での、彼のおそろしいまでの武闘派ぶりを知らないメンバーは少なくともここには居なかった
「まぁまぁそんな事言わず!信繁君〜〜〜!」
アルカイックスマイルを見せながらズリズリにじり寄る同僚達
ここで圧に怯みウマウマ逃げられる訳にはいかない
すささささ……!
決して何処かに立ち去らないよう人海戦術でグルリ四方退路を断った
本能的な『発想』は、流石戦闘集団の隊員達である
本気度を察した信繁は肩をすくめる
「〜見りゃあわかるだろ、仕事と勉強で手一杯なんだよ」
信繁は立ち上がらず気配を察し、シッシと軽く手を振り五月蠅そうに言った
「そんな事言わずに〜〜〜!」
ーーーだから最後の究極の必殺技
「秘技・泣き落とし」を発動する
彼への最も有効的と思われる絶妙な伝統的効果戦法に賭けたのだ
隊員達は両手を握りしめ摺り合わせ、全員一斉にウルウルと耀くびっしょり雨に濡れた子犬のような目で訴える
なんてったって、テキは『正義の味方』
日の本一のモノノフ、真田丸で有名な武将・真田幸村の本名は、真田信繁だ
信繁は勇者の名を冠する男、弱き者に対する正統派絶対的ヒーローなのだから間違いなく見捨てるはずも無い
まぁ少々情けなくエゲツナイが仕方が無い、しょうが無いだろう
最早プライドなんかくそ食らえだ
「そこを何とか〜〜〜!!信繁大明神さまっ!」
「聞くまでここを離れんからな〜!!」
「俺っちにそんなに冷たい事を言うだなんて信じられねー
化けて出てやる〜!」
口々にオウオウ大混乱のワケワカラン奇妙な雄叫びを上げる厳つい同僚達
嫌そうに見回し、とうとう信繁は、はーーーっと根負けし勉強の手を止めた
おどおどと〜先程から『雲の上の人』
全新人隊員究極の憧れの殿上人にすっかり威圧された新人君
彼は既に可愛そうな程萎縮し、顔色は青を通り越しとっくに紙色のように白く血の気が無い
「……しょうがないな」
着やせする身長200cm近いスレンダーな信繁は、ボソッと呟くとおもむろに机と椅子との空間を空ける
彼の全身から発する気迫に圧迫されまくり、プルプル身体を震わせる哀れな新人君の方に、そのまま椅子を微かにキュッと鳴らすと体ごと向ける
スリムで長い足をスーーーッと事も無げに美しく組む
一応は信繁なりの、少しリラックスした雰囲気を醸し出させる経験的見せポーズらしい
カッカといきった同僚らですら思わずボーッと見惚れる麗しのその姿勢!!
『うわコイツマジかよッッ最悪だろ、男でも魅入られるだろうがっっつ!!』
だから当然、美しく信繁が姿勢を変えた途端、案の定
彼を取り囲む男達の背後からキャーー……っと言う悲鳴に似た甲高い大きな響めきが聞こえた
十重二十重の人垣のほんのちょっぴりの僅かな隙間からもっと何とか魅惑の姿を見ようと粘る気配、ドドドドドと大移動が起き始める靴音が響いた
しかし信繁はそんな下世話な事柄には一向に頓着せず、いつも以上の誠実極まる様子でまだ初々しい表情の残る新人隊員君にこんこんと諭した
「あのなぁ……
女性の喜ぶ言葉言葉って男はやたら騒ぐけどさ?
言葉って、言われた後から思い出して グッとくるもんだろ?
だったら、今お前が1番伝えたい言葉を、きちんと
目を見て正直に伝えれば、それでいいんじゃないのか?」
「……」
ーーーーーーオイ
ちょっと待てや信繁ッッッ
そいつぁー聞き捨てなんねーぞ?!
ーーーービシッツ!!
取り囲んだ同僚達の眉間に怒りの皺が寄る
何だとコノヤロウ!!
「っっ信繁ェーーー
そりゃあ何したってどうしたってお前、年がら年中、女にモテるからいいけどさあ」
「俺達はオメーと違うんだぞ?!」
「そんな単純で良かったら、こんな苦労しないぞ!」
隊員全員で「ばっきゃろーそーだそーだ」
怒濤の大ブーイング大会が開催された
信繁は再度肩をすくめる
「それだったら、俺じゃ無くて子龍や雅に聞けよ
ソモソモ人選がなんで俺なんだよ?
そういう事はアイツらの専門だろ?」
信繁の言に場は益々燃え上がりシューシューヒートアップした
「オィ〜信繁〜〜
おとなしい俺達を馬鹿にしてんの?
子龍この前、何だかよくわからん、俺達が一生に一度も過去現在未来聞く予定もなさげな謎の言語で女口説いてたぞ?」
「雅がよくするバンビちゃんみたいなカワユイ”ウィンク”
今からマスターしろって〜のか?!
嘘だろオイ参考にならんわーーーっ!
”練習”だけでヨユーで人生終わっちまうぞ?」
「……」
「子龍みたいに壁にドッカリ手をついて美人の瞳を見つめつつ、全身カユクなる”愛を囁く”って、んな蕁麻疹が出そうなゾワゾワな事まともなジャパンの男が出来るわけねーだろっ!」
「アイツらどいつもこいつも異常に上級テクすぎるわ〜〜!」
信繁はフーーッと盛り上がって荒れまくる厳つい男達を見上げ、仕方なさそうに大きく溜息をついた
『ヤレヤレ』
女性以上に長い、パッチリ綺麗に整う睫毛が悩殺的にユラリと揺れる
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