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信繁は起動させていた『最新式軽量化ノート式電子記録』をパタンと閉じた
どうも片手間では無く本気で後輩に、本格的にしっかりアドバイスをする気になった様子だった
新人隊員の俯きがちの、自信の失われたオロオロ弱々しい表情を、信繁は椅子に座った下方から一途で真剣な目で覗き込んだ
途端にブワッと艶めく信じられないオーラ爆誕、真面目で強烈な眼光を放つ茶色っぽい瞳が、グッと彼の柔らかな心を深く撃ち抜いた
「あのなぁーーー
お前の心から好きな女って
〜本気で自分を好きだっていう男から、そんなキザな安い事言って欲しいと思ってるわけ?」
「えっっっっっーーー?!」
「よく考えてみな
好きになるだけの理由がある人、素敵な誠実な女性なんだろ?」
「「「「「〜〜〜〜〜」」」」」
「あぁ……それと これやる
子どもの頃から自分が好きな奴だ
それ食って頑張れ
俺もその恋、応援してるからな」
信繁はガサガサと手渡しで何かの小袋を新人隊員君に突きつけると、以後は再び何事も無かったかのように勉強に戻る
再びノート式電子記録電源を立ち上げ、大量の資料と格闘しながらの資格試験勉強を再開させ始める
まるで夢から醒めたようにボーッと元の席に着いた男達は、今し方〜
信繁より有り難く直接新人隊員が貰ったばかりの小袋を、その場の全員で早速検分することにした
新人君の掌には信繁の常備菓子?
個包装された小さなオヤツが握られていた
「……なんだそりゃ?」
「菓子?ナニナニ『黒い稲妻』?
えーっと??
パッケージから察するにチョコレートのコーティング菓子か」
「そーいやそれって信繁班の奴らが、いつも何だかバクバクよく食ってんな」
「子龍も食ってたし?」
「なー?」
「確か雅もだし」
「そっかーーー
成る程ねー出所は信繁、リーダーのアイツの常備食、大好物だった訳か
確かにチョコって脳みそに効くらしいしなぁ」
「アノこれーーー
僕が本当にもらっちゃっていいんでしょうか?」
「なー食い終わった後のパッケージ、俺に御守りにくれよ?」
「アホっっ!!」
余計な口出しした隊員は、年かさの同僚にパコーン!
「お約束」として綺麗にどつかれた
「あのさぁ、ソイツーーーいいか?
信繁さんから直でもらったんだから”魔法の菓子”だ
大切に食って気合い入れろ
きっと、世界一難易度の高い告白だって上手くいくさ
知ってるか?
あの人、信繁さんにはさ……
相棒の子龍としか絶対飲まない特別の酒があるんだぜ?
彼の生まれ故郷で造る、限定出荷の非常に手に入りにくい地物のウィスキーさ
皆いつかは、それをサシでお相伴に与りたいって思ってるんだが中々〜ねぇ
俺達の間では、優秀な彼に直々に認められた人間しか飲めないって噂の的だ
アレ程じゃないが、きっとプレミア級の素晴らしい御利益があるぞ?」
「!!……そうなんですね!」
「その酒の逸話、少なくともある程度のランクの猛者達
〜上はみんな知ってるよ」
「ぁ〜〜マジで良かったなぁ〜〜〜〜!!
告白どっちに転ぶかは神のみぞ知るだがさ?
告白後に信繁の好きなタマゴとマヨのサンドイッチ、買って”お礼ですっ”て持ってけよ?
そうすりゃきっとお前の男気 喜んでくれるさーーー
いつもアイツ、今日見たく特別気合い入れる時モリモリ食ってんし?」
「はいっ!」
先輩達の頼りがいのある親切な励ましの言葉に、ずっとオロオロ不安そうだった新人君の表情は漸くパァッと明るく変化した
キラッキラに星の如く純情な瞳が綺麗に輝いた
*********
さて
ーーー告白の結果はというと
信繁の『言ったとおり』だった
「素朴で正直なところがとってもカワイイ
貴方大好き
恋心を試したり変に策を弄する男はサイテ〜」
ずっきゅーーーーん!!
決死の勇気を振り絞ったものの
今にも医務室に担ぎ込まれそうなプルプル顔面蒼白の唇まで真っ白な新人隊員君に対し、麗しの彼女はニコッと微笑みそう返事をした
「ホントに可愛い
食べちゃいたいわね〜〜君」
チュッ!
予想だにしなかった、マウストゥマウスの親愛のバードキスに、新人君は突然ガクッと膝から崩れ落ちた
「ぎゃ〜〜〜!死んだぞコイツ!」
「大変だ!!」
「うわ大丈夫かよ?!」
ーーーーブラックアウト
完全に天国へと昇天した彼の元に、物陰で様子を不安げに伺っていた先輩諸氏は全員で慌てて駆け寄った
「もう〜〜〜ビックリしちゃった」
彼女の『お座布団決定』〜の新人君が、担ぎ込まれた先の職場医務室で漸く何とか息を吹き返すと、夢にまで見た麗しの天使〜
ベッドで横たわる彼の目の前には心配そうに覗き込む、憧れて止まない愛しき人が付き添って居た
それだけでは無く、彼の手をギュッと不安そうに両手で強く握り優しく、蕩けそうにしっとりと安堵の微笑みを投げかけていた
「もぅ〜〜〜心配させないでよねっ?」
「好きすぎてごめん」
「ーーーー……バカ」
2人の傍目にも微笑ましく仲むつまじい様子
『噂』はあっという間に拡散した
凄まじい勢いでビュンビュンと
ーーー以来信繁は『恋愛の神様』
「縁結びの神ッッ!!」
「是非恋が叶うように握手して下さいっっ」
『城』男性職員から別方面でも崇め奉られる事になる
購買部からは”最強告白必須アイテム”として、例のチョコ菓子は職員にワラワラ爆買いされ常にソールドアウト状態
「ヤッパ”黒い稲妻”、今日も売り切れだってさ信繁
〜入荷は『未定』」
「ーーーー」
「も〜〜〜箱買いで製造元か卸より個人で取り寄せるしか無いでしょ!」
「ぁーー食えなくって残念だなぁ」
「……」
子龍と雅の発言の通り
肝心な信繁の口に入ることは以後当分無く、彼が溺愛するチョコ量多めの好物の小さなチョコ菓子は暫く入手困難だった
終
2024/10/24
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