過去

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それから、弁護士を通しての長い話し合いの末、眞理子の夫はなんとか離婚に応じてくれることとなった。 初めて会った日に撮った写真が役に立った。 けれども、先に愛人を作った向こうは上手く言い逃れ、眞理子の方は俺と一緒に住んでいることで不貞とみなされ慰謝料を請求された。 それも通常の慰謝料としては考えられない額。 現金1千万を眞理子が直接持参することを条件に、サインした離婚届を渡すと言われた。 きっと眞理子にそんな大金が用意できないことを見越しての提案だ。 だから俺がいろんな金融機関から金を借りまくって、それを工面した。 普通のところからでは全然足りなくて、やばそうなところからも借りた。 眞理子が一人で夫と会うのはさけたかったけれど、向こうが会うことを指定してきた日は、よりにもよって、落とすと進級に響く大事な試験がある日だった。 留年はさけたかった。 早く就職すれば、それだけ早く借りた金も返せるし、眞理子に不安な思いをさせなくてすむ。 それで、眞理子ひとりが夫に会いに行くこととなった。 「何かあったらすぐに電話して」 「会うのはホテルのロビーだから。人も多いし、そんなとこではさすがに何もされないと思う」 「やっぱり俺、ついて行った方が……」 「大丈夫。柊ニくんが試験終わって家に帰るより、私の方がここに帰って来る方が早いよ」 「気をつけて」 「ありがとう」 家から送り出した時の眞理子は、今まで見た中で一番の笑顔だった。 そして、それが眞理子を見た最後だった。 試験を終えて急いで戻ると家は無人で、待てども待てども眞理子は帰って来ない。 スマホに電話をしても、電源が入っていないのか繋がらない。 すぐに弁護士に連絡をしたけれど、全くの赤の他人に何も教えてくれるわけもなく、そのまま、眞理子と会うことは二度となかった。 まさか……眞理子に限って…… そう思いたかった。 けれども、時間が経つにつれ、現実が重くのしかかる。 俺は……騙された…… 眞理子は姿を消し、残ったのは1千万の借金。 女に騙されていたとも知らず借金したなんて、そんなことで親を頼れるわけがない。 大学を中退して、借金返済のために働く選択をした。 親の期待も裏切った俺は、家族も失った。
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