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午前1時過ぎ。
客の少ない平日は早めに店が閉まる。
店を出て歩いていると、同じく仕事帰りのニイナに出くわした。
「しゅーじーっ! ここで会えたの運命じゃない?」
「気安く運命とか口にすんな」
「マジになんないでよ。部屋行っていいでしょ?」
「いいけど、何か奢れよ」
「何が食べたい?」
「おでん」
「OK」
ニイナはFILOUの近くにあるキャバクラで働いていて、時々帰る時間が同じになる。
そういう時は一緒にご飯を食べて、その後俺のマンションへ。
本当の名前も住んでる場所も知らない。知っているのはニイナという源氏名だけ。
年下のニイナに俺はいつも奢ってもらう。その代償は体の関係。
「こんなことばっかして、まともな彼氏作ったら?」
「そんなこと言ってぇ。そっくりそのままお返しします。そっちこそまともな彼女作ったら?」
「お互い様か」
「柊ニってば無駄に顔だけいいよねー」
ニイナが俺の前髪に手を伸ばす。
「無駄って言うな」
「あっ……やっ……柊ニ……」
ニイナを抱きながら、頭の中は全然別のことを考えていた。
今日の女、本気で400万払ってくれるつもりだったんだろうか?
その代償は?
ヒモ?
まぁ、オバサン相手よりはマシか。
「覚悟」を決めれば、こんな生活から早めに抜け出せると言いたかったんだろうか?
どこまで本気だったんだろうか?
「柊ニさぁ、やりながら他のこと考えてたでしょ?」
「そんなことないって」
「まぁ、いいけどね。帰る」
「泊まんないの?」
ニイナは俺の額に軽くキスを落とすと、ベッドの下に脱ぎ捨てた服をかき集めた。
「あのさ、こうやって会うのも最後かな」
「何で?」
「父親が脳梗塞で倒れたって連絡あって、人手がいるらしいから地元に帰るの」
「いつ?」
「明日。って言うか、もう今日か」
「そんな急に!」
ニイナは俺が声を上げたことに嬉しそうな顔をした。
「柊ニ、あんたはちゃんと恋愛しな。それで、タバコもやめな。あんたの部屋に来た後、タバコの匂いついて大変なんだから」
「年下のくせに説教かよ」
起き上がって服を着ようとした俺をニイナは止めた。
「そのまま、そこにいて。送んなくていい。寂しくなるから」
服を着終えると、ニイナは玄関に向かったけれど、もう一度戻って来て言った。
「あのさ、いい加減、女に復讐するみたいな生き方やめなよ」
「俺の……何が……わかんだよ……」
「なーんにも! わかるわけないじゃん。話してくれないんだからさ。元気でね」
そして今度こそ、手をひらひらと振って目の前からいなくなった。
ベッドの脇に置いていたタバコに手を伸ばし、火をつける寸前で止める。
復讐か――
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