悪魔か天使か

2/7
前へ
/39ページ
次へ
「運命感じた?」 昼間のバイト先であるカフェへ出勤すると、昨夜の女がまた現れた。 昨晩とは違って、真っ白のワンピースを着ている。 昼間見ると高そーなもんを身に纏ってるのがわかる。今日持ってるのは、レディディアールだよな……? やっぱこの女金持ちだ。 「ご注文はお決まりですか?」 「カフェラテのホット」 「かしこまりました」 注文を通しながら、そっと女の方を見ると、カバーに梨のかじられたマークの入ったノートPCを開いて何かをしていた。 俺のこと調べたのか? 調べたんだよな。 昨日の今日で偶然なんてありえない。 「3番様」 その声に、キッチンカウンターに置かれた抹茶ラテと苺のソースがふんだんにかかったフルーツパフェをトレンチにのせ、テーブルへ向かった。 店内をめずらしく小さな子供が歩いていた。 本当にめずらしい。 あまり子連れが来るような店でもないのに。 その子供が、何かにつまづいて、テーブルの角に頭をぶつけそうになるのを見た瞬間、咄嗟に子供を支えた。 そして、子供を支えたばかりに、左手で持っていたトレンチのバランスに配慮が欠けた。 「あ!」と思った時にはもう遅く、上にのっていた抹茶ラテとフルーツパフェは、見事にあの女のテーブルにぶちまけられていた。 同時に、助けた子供は、すごいいきおいで店を走って出て行った。 それらは全て一瞬の出来事。 そもそも子供の親は? 恐る恐る女の方を見ると、テーブルの上のノートパソコンはどろっとした苺ソースとフルーツにまみれ、抹茶ラテの熱さで溶けた白いアイスがグリンになっていた。 更にそれが女の真っ白いワンピースに飛び散り、膝の上は見るも無残にグリンの大きなシミを作っている。 「買ったばかりのパソコンに、一点もののBELENCIEGEのワンピース、どうする? それから――」 女はドロドロの苺ソースとアイスにまみれたレディディアールのピンクのバッグを持ち上げた。 「これ、中まで抹茶まみれなんだけど?」 女は……嬉しそうに笑った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加