11.亀先生の孫、復讐する

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 意識せず足は自然に自宅ではなくホテル源圓のほうへ向かっていたらしく、八木は気がつくとその広い車止めで、うずくまるようにはぁはぁと息をしていた。  ぬるりと何かが手に触れ、見ると着物に触れた手に水藻が絡みついている。八木は小さく悲鳴をあげながらそれを振り払った。 「どうなさいました?」  悲鳴に気がついたのか、ホテルの従業員の男が八木に走り寄ってくる。八木はまだ若いその純朴そうな顔を見ると途端に体の力が抜けて、その場に膝をついた。 「あ、お運びいたします。お医者をお呼びしましょうか」 「いや、医者はいい。部屋まで運んでくれ」  男が八木を肩にかつぐようにして中に入ると、二人に気がついた仲居も走り寄ってきて、二人に支えられながら八木は部屋へと戻り敷かれていた布団に寝かされた。部屋は適度に暖かく、厚い布団の上で、やっと八木は息をついたが、体の震えはなかなか収まらない。八木は何も考えることができず、ただ全身を包む恐怖に震えながら、柔らかな布団の上でガタガタと震えた。 「八木様」  女の声に飛び上がるほど驚き、八木は横たえていた体を起こした。 「大丈夫ですか? あぁ、なんていう顔色をされているのです。医者を呼びましょう」  入ってきた真理子は八木の顔を覗き込むと、再び部屋の外へと出ようと体の向きを変えたが、八木の手が真理子の腕をつかんだ。 「いや、いいんだ。いいんです。お願いです。ここに、いて下さい」  ガタガタと震える八木をなだめるように、真理子は八木に再び向き直って、その肩を優しくなでた。 「えぇ、大丈夫ですよ。私はここにおりますから、あら、お着物が濡れていらっしゃる。それではお風邪をひいてしまいますわ。浴衣にお着替えなさったほうがいいですわ」  真理子は手際よく畳んであった浴衣を広げ、八木はのっそりとした動きで着物を脱ぎ、真理子の持つ浴衣に腕を通した。 「これを一口飲んで、少しお休みなさったほうがよろしいですわ。わたくしはずっとここにおりますから、安心なさって」  八木は真理子から手渡された猪口を口元に近づける。強いアルコールの匂いのそれを一気にあおる。ブランデーが、喉をかっと熱くして胃に滑り落ちていった。八木はやっとそれでひとここちつき、促されるまま布団へ横になると、真理子は八木にそっと掛け布団をかけ、子どもにするように胸のあたりをぽんぽんと叩いた。 「お願いですから、ずっとそばにいてください」 「えぇ、ずっとここにいますわ」  強い酒が効いたのか、八木は眠りが近づいてくるのを感じ、そばに真理子が座っているのを感じながら、瞼を閉じた。
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