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覡操先輩には周囲に隠している秘密があって物体なら何にでも入れ替われる能力がある。人間は勿論、ペンや消しゴムにもなれたりするらしい。
「羨ましいな〜その能力」
「僕以上の人間なんて居ないですし、使う事すらくだらないでしょ」
「でた〜みこたんのナルシスト!じゃあさ、それじゃぁ私と入れ替わってみない?」
「何故」
「逆に金持ちである私がどんな生活をしているか気にならない?」
覡操先輩は少しだけ考える素振りを見せてニヤリと笑いながら
「面白そうですね。是非」
と言って、覡操先輩は親指と人差し指をクロスしてその指を逆クロスにした。
瞬間、辺りが一瞬だけ落ちたように暗転したかと思うと、直ぐに元に戻る。いや……身体に謎の違和感を感じ、目の前の覡操先輩を見て驚いてしまう。
「すご!私じゃ〜ん」
「大して変わりませんね」
目の色や若干身長が違うくらいで大差のない私達は、そこまで違和感なく入れ替われてしまう。
そう、多分私達が代わってしまったとしてもきっと誰にも気づかれない。
「やっほ〜、私神琴だよ〜!趣味は花を眺めることだよ〜!あ、蝶々〜!……完璧すぎますね」
「え〜?私そんなアホっぽく見えてるの?」
「何言ってるんですか。貴方はアホの子代表でしょう」
そこまで言う!?とは思ったけどぶっちゃけ否定できる要素はそこまでなかったし、それなら私も彼の真似をするしかない!
「そうですか。貴方には、その様に見えていると。本当に滑稽な愚者ですね」
「え?僕そこまで言いませんけど?」
「い〜や!言ってる!似たような事、言ってるから!!」
覡操先輩は若干引き気味に私の事をみてる気がする。気の所為だよね〜?とか思ってちょっとだけ覡操先輩のように振舞ってみる。
「あぁ、居たんですか?神琴。見えませんでした」
私は冷めた目で言い放ち、「どうだ〜」と言いながら覡操先輩を見ると、少しだけ悲しそうな顔をしてる?覡操先輩は普段、感情の起伏が少ないのに珍しいな〜と思っていると、珍しく言葉を選んでいるのか私達の間に少しだけ無言の空間が生まれる。
「貴方、少しだけ怖いですよ。確かに僕は口は悪いです。ですが貴方に、そのような冷た過ぎる目を向けた事は1度もありません」
「え?よく冷めた目で見てるよ?」
「貴方のその憎む様な冷たい目と、日常的に冷めた目で見るものは理由が違います」
う〜ん全く自覚が無いと言うのは嘘になるかな。冷めた目を向けるのに思い浮かんだのは、家族や周囲が私に付ける目線だったから……正直な所、覡操先輩に冷たい目をされた所で面白いな〜くらいにしか思わない。そういう事かな〜?
「まあ、今後そこまで入れ替わる事も無いでしょう。金持ちライフとやらを堪能させていただきますよ」
「え、みこたん先輩も別に貧乏な訳じゃないでしょ〜?」
「規模が違うんですよ規模が。それではここで。キリの良い0時頃に解除、お開きにしましょう」
そう言って覡操先輩は私の家にむかう。足早だな〜と思いつつも、その姿を見て私は「ごめんね〜」と、言ってその姿を見送る。
理由?私の家には味方なんて居ないのだから。
覡操先輩の家につき、扉を開けると「何やっとんねやボケ老人が!」という罵声に面を食らってしまう。これが覡操先輩の言ってた弟さんか〜とか思っていたら、「うっせぇわ!この、くそドラムスコが!!」という大人気なく受け言葉に買い言葉の声がきこえてくる。覡操先輩は日常茶飯事だからスルーしていいと言ってたけど、こんな面白いもの見るの始めてすぎてつい眺めちゃうよね〜
「あ、兄貴おかえり〜」
「帰ったか、覡操。おかえり」
「……ただいま」
言われ慣れてない言葉に、不器用に返してしまったからか二人は顔を見合わせ私の事をじっと見つめてくる。まって、この親子めっちゃジロジロ見てくるし、匂い嗅いできてない〜?え〜、何だろう??警察犬か何かなのかな?
「あんた、クソ兄貴か?」
「どう考えても僕ですけど」
「いーや、嘘だな。俺の息子はここで罵詈雑言を浴びせた挙句中指まで立てて去っていく様な男だ」
「せやせや!俺らのこの罵声なんか非でもないわ!」
本当になにやってんの覡操先輩〜というより、この家に入って数秒でバレちゃったんだけど勘が鋭すぎない!?この家族色々な意味でバラバラ過ぎだよね?!
「そういえば名前は何なんだ」
「神琴です」
「いや、あんたの名前や」
「神琴です。守旺条 神琴」
二人は一瞬間が空いたとおもえば「あんたか〜!」と言い机をバシバシ叩いてたり、私と肩を組み笑い転げる。え、知り合いかな〜?!なんかホームステイしたら陽気な外国人に囲まれた陰キャの様な気分〜!
「噂には聞いていた馬鹿息子に似てるとかいう神琴くんか!」
「どうせ馬鹿兄貴と入れ替わっとんやろ!本家神琴くんも見てみたいわ〜」
と、また笑いながら言ってる二人に、あたかも普段通りにに接して貰えるのが嬉しくて、つられて大きな声をあげて笑ってしまう。はしたないかな〜と思って申し訳ないなと二人に目線を向けると
「やっと笑ったわー!」
「シケたツラしてたからな。やっぱ笑顔が1番だ!」
「あんたのドラ息子の兄貴は笑わないけどな!」
「心が笑ってればいいんだ!」
と言い合いながら「やんのか!?」と、次は喧嘩になりそうな雰囲気に変わる二人にまた笑いが止まらなくなってしまう。こんな愉快な人達と暮らしてるの反則すぎでしょ〜!
あ〜あの家に戻りたくないな。
とりあえず入れ替わった経緯を2人に説明し、「兄貴が増えたみたいやわ!」とか、「また来ていいぞ」とか言われながら、ご飯やお風呂まで頂いて談笑していたらもう、夜が深くなっていく。こんなに楽しくてあっという間に時間が過ぎ去る事ってあるんだ〜と思いながら、覡操先輩の部屋に戻り残り時間を待っていると暗転し何時もの何も無い部屋に戻ってくる。そして、直ぐに着信音が鳴り響き通話ボタンを押すと秒で『劣悪極まりない環境じゃないですか』と、覡操先輩の声が響く。
「だよね〜、一日だけ代わってもらえて楽になったよ〜ありがとう!」
『流石に説明無しの無視や冷遇。そしてご飯にまで幼稚な嫌がらせ、そして貴方の部屋物置じゃないですか。勉強机に監視をつけられた挙句難癖をつけられる状況は頭狂いますよ。ただ、一切バレずに済みました』
「あ、私の方は秒でバレちゃった」
『でしょうね』
「ごめ〜ん」と軽い謝罪をし、しばらくの沈黙の後、覡操先輩は一息つき言葉を続ける。
『交渉しましょう。暫くは週に1回僕と替わってくれませんか?』
「ええ〜、神琴先輩の負担になっちゃうだけだよ〜、ご家族にも迷惑だし」
『僕の家族がそんな事を気にするとでも?ある程度、貴方の家の事情を説明すれば「そいつらボコしてこい」という結論になるでしょう』
一日しか会ってないけど確かに納得しちゃった〜!でも正直、私も今居る状況が好ましいとは考えてないから助かるし、覡操先輩の家族は暖かいからきっと入れ替わった僕の事も迎え入れてくれる。
「……僕の代わりになってくれないかな?」
『しょうがないのでなってあげますよ。あんな家ですが貴方の家ですしね』
ふふふ……と、電話越しに神琴先輩の奇妙な笑い声が聞こえる。あ、これもしかして火をつけちゃってるかな?多分覡操先輩思いの外負けず嫌いなんだよな〜。どうなっちゃうんだろう?覡操先輩なら変えてくれるかもしれないと、淡い期待をよせながら私は暫く他愛ない話をして通話を切り眠りについた。
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