2人が本棚に入れています
本棚に追加
1
佳菜子とは、一年ぐらい同棲したよ。
おれたちは、ふたりとも同じ派遣会社に登録していた。
あるとき工場勤務で、同じ職場になって、そのことを知ったんだ。それがきっかけで親しくなり、同棲するまでにいたった、というわけ。
でも、同棲するうちに、だんだんと彼女のいやな面が見えてきてね。正直言って、一年もたつと、そろそろ別れたい、と思うようになった。
佳菜子のほうは、逆におれと結婚したがっていた。派遣どうしで結婚したって、ろくな暮らしはできないのにね。
おまけに、ある日突然、
――できちゃった。
なんて言いだした。妊娠したんだよ。
ちゃんとコンコーム使ってたんだけどな。
もしかすると、佳菜子がゴムに穴をあけておいたんじゃないか、って、おれは疑ったもんだ。
それはともかく。
できたものは、なんとかしなくちゃいけない。子供を産むとなったら、その間、おれだけの稼ぎになるわけだ。とてもじゃないけど、やっていけないもん。
友だちから金借りてくるから、「堕せ」って言ったんだ。
佳菜子は拒否した。
喧嘩になり、もみあいになった。はずみで、ちょっと佳菜子を突きとばしたら、ちゃぶ台のかどに頭をぶつけた。それっきり、床に倒れて動かなくなった。
はっと気がついて、呼びかけたんだけど、ぴくりともしない。
近づいて、様子を見た。
息をしていないし、心臓も止まっていた。
――死んだ。
おれは腰をぬかしたよ。
最初のコメントを投稿しよう!