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ぼんやりとテレビを見つめながら、ふぅ、と息をついた。
だけど、その時だった。
「それでは、次のニュースです。今日午後六時頃、愛知県名古屋市の建設中の高層ビル現場で、足場が倒壊するという事故がありました。現場にいる、森田さん」
ビールを口にしかけていた手が、ニュースを伝えるアナウンサーの声でピタリと止まった。
テレビに映ったのは凄まじい事故現場の様子で、缶を持つ手に思わずぎゅっと力が入った。
事故の起きた場所は名古屋駅からすぐだというせいか、建設中のビルの真下は広い歩道で、崩れた足場が広がるそこには染み渡るたくさんの血痕が見えた。
「現場作業員や歩行者など、ケガ人が多数いる模様です。帰宅時間も重なり、普段から人通りの多い現場はかなり混乱している状況ですーーー」
緊迫した状況を伝えるキャスターの周りには、複数の救急車が並んでいる。
そして、カメラが周辺を映した光景を見た瞬間、私は動揺して持っていた缶ビールをすぐにテーブルの上に置いた。
あの時と、よく似ていた。
事故現場には、二台のレスキュー車まで停車している。
レスキュー車は救助工作車といわれ、消防の特別救助隊や特別高度救助隊などが使用する消防車の一つで。
大きな火災や交通事故、自然災害など様々な救助事案に対応できる多数の救助資機材を積載している車だ。
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