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実 験
量子力学の分野で長く埋もれていた科学者、杉野丈晃は、自分が思いついたある実験のアイデアに心を躍らせていた。
それが成功すれば、ノーベル賞も夢ではないかもしれない──そう確信していた。
その実験は、核となる量子を箱に入れ、定期的に「感情のエネルギー」を送り込んで成長を観測するというものだった。感情のエネルギーは、特定の周波数に対応する。量子に異なる周波数を送り込めば、それぞれが独自の成長を遂げると、丈晃は考えていたのだ。
過去、類似の実験を人間で行った科学者がいたが、それが大きな反感を買ったことは記憶に新しい。しかし、あれは一種の成功だった。成果が出たからこそ、倫理的に問題視されたのだ。丈晃は、量子という非人間的存在を使えば、同様の反感は起こらないだろうと考えた。
これは、すごい実験になるぞ!!
丈晃は早速実験の準備に取り掛かった。四つの箱を用意し、それぞれに小型カメラを設置して、定期的に「喜び」「怒り」「無感情」「すべての感情を混ぜたエネルギー」を送るよう装置をセットした。
彼は、その日から研究室にこもることを決めた。量子に「感情のエネルギー」を送り、それがどのように影響を及ぼすかを観測するためだ。
実験の成功が彼のすべてだった。
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