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そんな状態が続く中で、彼は夜も眠れなくなり、実験室に閉じこもり続けた。量子を観測していたはずが、いつしか彼は逆に自分が「観測されている」ような気がしてならなかった。
「なぜだろう目が離せない。まるで、量子が僕を呼び寄せているようだ。」
***
自分が観測対象であるように感じてから、漠然とこのままではいけないと感じていた。だが、画期的に感じられたこの実験をみすみす手放してしまっては、もったいないという科学者としての性も邪魔していたのだろう。なかなか踏ん切りを付けることが出来ず、そのままずるずると日にちだけが経っていた。その間も、丈晃の感情は量子に支配される時間が長くなり、更には自分の中に記憶の無い空白の時間があることに気付き始めていた。
ある日、丈晃はついに決意を固めた。
全ての実験を停止しよう。このままでは自分がどうにかなってしまいそうだ。
しかし、装置を止めようとした瞬間、ライブ映像のすべての量子が彼を見つめ返しているかのように動きを止めた。そのねっとりとした粘着質な視線を感じ思わずその手を止めた。ライブ映像から送られるそれらの視線は、丈晃を絡めとり離そうとしない。
その視線から逃れようと無意識に後ずさりする彼の背筋に、冷たい汗がツーっと流れた。
ー実験室そのものが観測されている!?ー
丈晃はそう感じた瞬間、慌ててビデオの記録をチェックし絶句した。録画の中には、彼が実験室をうろうろし、カメラに向かって語りかけている姿が映っていた。
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