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そこに映るのは正しく自分の姿なのに、彼自身にはその記憶がまったくない。まるで彼の行動は、別の誰かによって操られているようだった。
「これは・・・一体・・・。」
最後まで映像を見た後、丈晃は静かに実験室を見渡す。すると、彼の背後の暗闇から、何かがじっとこちらを見つめている感覚に襲われた。量子にエネルギーを与え育てていたはずが、逆に量子に「育てられていた」。いや、それ以上に、自分の行動を監視し、観測していた「何者か」の存在を感じ取ってしまったのだ。
***
翌朝、丈晃の姿はどこにもなかった。実験室は静まり返り、すべての装置は停止していた。しかし、ひとつだけ暗い画面に映し出された映像が残っていた。それは無人の実験室を映し続けるライブ映像だった。
しばらくして、画面の奥から黒い影が現れた。それは人の姿に似た影で、カメラに向かって不気味に笑っているように見えた。影の顔は曖昧で、目だけが闇の中から浮かび上がり、こちらをじっと見つめている。その目に捉えられた瞬間、まるで自分が映像の中に引き込まれるような錯覚に陥る。
画面が微かに揺れ、影が口を開けた。そして、ゆっくりとその口から言葉が漏れた。
「──見ていたのは、君もだろう?」
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