野菜のうまみ

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 とある山の麓に村があった。村は豊かな自然に囲まれていた、が、ここで暮らす村人達は枯れ枝のように痩せ細っていた。原因は長期的に続く日照りのせいだった。村人達がどれほど懸命に畑を耕し、作物を育てようとしても、厳しい日差しの下では全部干からびてしまった。 「村はもう終わりだ」  村人の男が(くわ)を捨て、頭を抱える。 「これでは皆飢え死にしてしまう」 「お腹空いたよ……」  男の隣にいた幼子がかすれた声を出す。 「こうなれば方法はただ一つじゃ」  老人が男と幼子の元に歩み寄る。老人はこの村を治める村長だった。 「方法だって?」 「どうするの?」  口々に疑問を並べる男と幼子に、 「雨乞いじゃ」  村長は言い放つ。 「すぐに準備を!」  村長の指示で、村人全員が広い空き地に集められた。ボロ着に身を包む村人達の前に立つと、村長は高らかに声を震わせる。 「おお神よ、どうか豊穣をもたらせるお恵みの雨を」  頭を垂れる村長に続き、 「神様どうか」 「お救いください」 「お恵みの雨を!」  村人達が祈りを捧げ始めた、その時、 「見てみろ!」  村人の一人が空を指差す。ふいに姿を現した黒い雲がみるみる膨らんでいく。 「やったぞ」 「祈りが通じたんだわ!」  にわかに活気づく村人達は、 「待て!」  村長の一声で静まり返った。 「あれは何じゃ?」  村長は雲の切れ間に目を凝らす。  覆い茂る葉でできた髪と髭、桃のように丸く朱が差した頬、それに柿を思わせる爛々とした目玉――  見るからに妖しい巨人が、立ち込める暗雲の後ろから顔を覗かせていた。
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