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「 」
フラっと近所の本屋に足を運ぶと、一冊の本の背表紙が目に入った。
高級感漂うハードカバーの背表紙に金文字で「運命」と箔押しされたものである。
その金文字のインパクトに惹きつけられ、思わずに手を取ってしまう。
表紙も同じく金文字で「運命」と箔押しされており、インパクトは抜群。
冷たく硬い表紙を捲った先にある標題紙には、自分の名が書かれていた。
著者の名前だろうか、自分と同姓同名の作家さんがいるとは思わなかった。
こんな偶然もあるものだと思いながら、標題紙を捲ると次にあったのは目次だった。
目次に書かれた章題は、0歳・1歳・2歳・3歳…… と「歳」で分けられている。
見開きにビッシリと書かれた歳の数、全何章かは確認していない。
何も考えずに目次を読み飛ばしただけだ。
プロローグ0歳、公務員の父と専業主婦の母との間に誕生。皆に祝福されての誕生であった。だが、程なくに受難が襲う。
なんと、父が姿を消したのだ。父であるが、そもそも母とは「遊び」の関係であった。
結婚をしたのは子供が出来たと聞いて、仕方なくのこと。
生まれた子の顔を見ても、可愛いとは思えない。母と結婚する前に付き合っていた別の女性とやり直すために殆ど蒸発と言う形で姿を消したのだった。
「私の生まれと同じだ……」
本を持つ手が震える。だが、このような生まれを持つ人間など探せばいくらでも見つかるもの。単なる偶然だろう。
1歳、父親の顔を知らずに母一人子一人で育つ。祖父も祖母もシングルマザーとなった娘を慮ってか、よく家にやってきて孫の世話を積極的に行ってくれている。
そのおかげが、すっかりおじいちゃんっ子おばあちゃん子に育つのであった。
「これも私の一歳の頃の話だ」
世の中には同じような育ち方をする人がいるんだなぁと不思議に思う。
2歳、肺炎に罹患し死にかける。祖母が水垢離を行い逆に肺炎を引き起こして死にかける。
孫と祖母が同時に肺炎で死にかけるなどと言う話は、今だに笑い話のネタになるだろう。
「これも同じだ」
もう、偶然が三回続いている。名前も含めれば四回だ。
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