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少女は、朝の光が射すホールで、踊りの練習をするのが好きでした。
彼女の艶やかな銀髪は、光り輝き、天使の輪ができています。若草色の瞳は好奇心に煌めき、しっとりした白い肌と、ふっくらとしたピンクの唇。愛らしすぎる彼女は、まるで天界から舞い降りてきた天使のようでした。
少女の名はエリナ。
スパニラス王国の第三王女でした。
エリナはまだ13才。夢見る乙女です。
いつか出会う運命の相手を想像しながら、その彼とパヴァーヌを踊るエリナ。
そんなエリナを見かけた少年がいました。
クイル。彼はエリナお付きのメイド長、アリエッタの息子でした。
クイルはいけないと思いつつも、ホールで踊るエリナをこっそり見続けました。
誰にも知られてはならないことでした。
ですが、ある日、神は小さなくしゃみをしました。その風で、エリナの髪を飾るリボンがふわりと舞いました。
エリナのお気に入りのリボンでした。
「待って」
エリナはリボンを追いかけます。
クイルは、自分の方に向かって来たエリナに驚いて逃げようとしますが、足が動きません。
しゃがんだまま顔を伏せるクイルの頭に、水色のレースのリボンが舞い落ちました。
「あら、あなたは誰? そのリボン、大切なリボンなの。返してくださる?」
クイルはゆっくりと顔を上げ、リボンをエリナに手渡しました。
「僕はクイルと申します。リボンを汚してごめんなさい」
クイルは震えていました。
どんな罰を受けることになるか。
母がメイドを首になるのではないか。
もっともっと酷い仕打ちが待っているかもしれない。
自分のせいで。
エリナは可愛らしい顔を傾け、クイルを見つめました。
「どうして震えているの? 寒いの? そうだわ。クイル、あなた、ダンスは出来て? 体を動かせば温かくなるわ、きっと」
エリナは白く柔らかな手をクイルに差し伸べました。
「待ってください! 僕は踊れません」
「大丈夫よ。私の隣に立って。そして、私の動きを真似してみて。左右は逆よ」
エリナは楽しげに踊ります。
クイルも困り果てながらもエリナの真似をします。
二人はだんだん楽しくなってきました。
「クイル、あなた、本当に初めて? とても上手だわ」
クイルは口を噤みます。まさか、毎日エリナをこっそり見ていたからなんて言えません。
楽しい時間はあっという間に過ぎます。
「エリナ様、僕はもう、戻らないと」
「そうなの? 一人よりずっと楽しいわ! ねえ、クイル、明日も来れない?」
「僕には仕事があるんです。でも、少しだけなら」
「約束よ?」
幼い二人は、秘密の約束を交わし、毎日一緒に踊りました。
初めは楽しいだけでした。
なのにどうしてでしょう。
二人は次第に一緒に踊るとき、恥ずかしさを覚えるようになりました。
銀髪に若草色の瞳のエリナは、天井に描かれたどの天使よりも愛らしいのです。
また、クイルは身なりこそ悪いものの、聡明そうな青い瞳と、栗色の巻き毛が魅力的な少年でした。
ダンスをしながら、いつしか二人は互いに見つめ合い、目を逸せなくなりました。
クイルに気を取られたエリナは、ステップを踏み外します。そんなエリナを助けようとクイルは一歩踏み出し、彼女の腰を抱き抱えました。
「エリナ様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫」
そう言葉を交わしたものの、二人は離れるのが惜しいと思いました。
二人は、互いに、自分の瞳に一人だけが映っているのを認めて、恥ずかしさと、それ以上に嬉しさを感じたのでした。
初めてダンスをした時から、一年が経っていました。
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