パヴァーヌの中の王女

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 その日、クイルと別れた後も、月明かりの入る部屋で、エリナはクイルに思いを馳せます。  王女の胸はクイルの熱い抱擁を思い出して高鳴り、その温もりのない現実に切ない気持ちでいっぱいになります。  次会えるのはいつかしら。  力いっぱい抱きしめて。  そして、たくさん口付けをして。  クイル、愛してるわ。   *** 「エリナ王女様」  目を覚まして、アリエッタの口調にエリナは驚きました。 「な、なあに?」 「今日は首元をお隠しになられませ。こちらのドレスを」  アリエッタに言われて、エリナはハッとしました。慌てて鏡を見ると、首に赤い口付けの跡がありました。 「アリエッタ。誰にも言わないで」 「ええ。言いませんとも」  アリエッタは自分の息子がエリナに会っていると気付いていました。    もう会ってはならないよ。  何度も言おうとしましたが、言えませんでした。でも、エリナの首筋の跡を見て、潮時だと思いました。 「ですが、王女様。いずれは嫁がれる身。関係をお切りなさいませ」  エリナの目からは涙が溢れます。  クイルに会えなくなる。  心が潰れそうでした。  でもそれ以上に、相手がクイルだと両親に知れて、彼が罰せられるわけにはいかないと思いました。 「もう会わないわ」   アリエッタはエリナの言葉に、ほっと胸を撫で下ろしました。息子の気持ちを思うと気の毒だけれど、彼を守るには仕方がないことだったのです。  エリナは月光が静かに注ぐ部屋で涙を流します。  今頃クイルはホールに来ているかもしれない。それでも彼を守るためなら、私はこの想いを秘めてみせる。  毎晩エリナは泣きながら自室で過ごしました。  王女はパヴァーヌを踊らなくなりました。  そして、一生独身を貫くことを誓いました。  もちろん、王も王妃も反対しました。  けれど、 「それが駄目なら、私は修道院に入ります」  エリナの決意の固さに、二人は折れたのでした。  
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