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今日は寒いから地下街から行こうかな。私は八重洲の地下街に足を踏み入れると、すぐに冷え切った体内に温かい空気がじんわりと沁み込んできた。思わずホッと一息つく。広くなったスペースでゆったりと歩きながら、働いている飲食店を目指した。
高いビルの一階にあるチェーンの飲食店でアルバイトしている私は、入口から入るとすぐに顔なじみのスタッフが出迎えてくれた。
「おはよ、綾芽ちゃん」
バイトリーダーの利喜さんが笑いかけてくれる。利喜さんは大学院一年生で、大学一年生の時から働いているから在籍5年目になるベテランだ。
「え、利喜さん。おはようございます。今日出勤でしたっけ?」
「相葉と代わったんだ。なんか急用できちゃったみたいで」
「そうなんですね」
私は少しだけ笑顔を見せて、逃げるように奥に入った。顔が熱くなるのが分かる。今日は利喜さんとシフトが被っている。私は慌てて毎夜送られてくるシフト表に目を通した。利喜さんと同い年の相葉さんの代わりで出勤しているということは、今日は利喜さんも締めまでだ。やった。
すぐにロッカーに荷物を入れると、制服に着替えた。ここの制服は白シャツの上にエプロンをするだけだから、すぐに着替えられる。あと少ししたらタイムカードを切ろう。私は用意されている机に座ると、本を開いた。その間にも同じ18時出勤のアルバイトが続々とやってきた。私は全員に「おはようございます」と挨拶しつつも、本へすぐに視線を戻した。
時計にちらりと目をやると、そろそろ18時になろうとしている。少し本にのめり込みすぎた。私は本をロッカーにしまうと、タイムカードを切って出勤した。先に働いている利喜さんの隣に立ち、「代わります」と言う。今日の私のポジションはドリンク。利喜さんと交代の時間だ。
「ありがとう。この注文を終わらせたら、次からお願い」
「分かりました」
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