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私の日常にはいつも本がある。
いつから読書が習慣づいたかは分からない。けれど物心ついた時には絵本をずっと読んでいたし、それもあって小学生の時には当たり前のように毎日図書館に通っていた。お小遣いを頑張って貯めて、ずっと欲しかった本を買ったりもした。大学では文学部に在籍し、日本文学の勉強に励んでいる。本にまみれた世界で私は生きている。
そして今日も、私の鞄の中には一冊の文庫本が入っている。淡い檸檬色のブックカバーを身にまとった小さな小説は、すっぽりと鞄の中でページが開かれるのを待っている。
学校帰り、アルバイトに行くまでの電車内で小説を開いた。どんなに電車の音がうるさくても、周りで人が会話していても、本を開けば気にならなくなる。本は偉大だ。一瞬で私を別世界に連れて行ってくれるのだから。
この世界で私は主人公にはなれない。人それぞれ人生があるなんて言うけれど、結局私はこの世界で小説の主人公のように活躍はしないで、名も知れ渡らずに死んでいく。ただのモブだ。脇役でさえも無い。台詞もない。ただそこにいるだけ。
けれど小説を開けば、いつでも自分が主人公だ。主人公に感情移入し、創られた世界を冒険できる。辛いときもあるけれど、元気をもらえるときや、家族や友人について考えさせられることもある。
『東京 東京』
アルバイト先の最寄り駅に到着し、私は電車から降りた。今日も仕事帰りのサラリーマンやOLがホームで沢山待っていて、私たちが全員降りるのを確認してからどんどん乗っていった。一度軽くなった車体は、またすぐに重たくなる。空いたと思った席は、一瞬で埋まってしまった。
私はそんな日常を横目に、目の前にあったエレベーターを降りた。長いエレベーターの先に広がる喧騒に飲み込まれないように、私はまっすぐ歩いた。制服、スーツと色んな服を身につけた人たちの間を縫うように通り抜け、やっと改札口に到着する。
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