神童の扱い方

1/1
前へ
/5ページ
次へ

神童の扱い方

 ひょんなことから異世界転移した。前世に絶望していたわけではないから、転生して死ぬほどうれしいというわけでもない。逆に、前世が名残惜しいと嘆くほど悲しくもない。でもどちらかと言えば嬉しい。なぜなら、待ちに待った魔法がある。そう、ここの世界では魔法が極められるのだ。  そんな俺は神童宣告を受けた。なんでも色々なことに才能が有るらしい。正直ラッキー。これで魔法を思う存分極められるぞ~~。  赤子の口ではうまくしゃべれないから、心で宣言した。  早くも月日は流れて、7歳になりました。  ベットから起き上がり、パンの焼けた香ばしい香りがする中、階段をトントンとリズミカルに下りてゆく。少しばかり眠たい目をこすりながらも、今日と言う日を楽しみにしていた。今日も魔法を極めていくぞ~~~。  部屋に入ると母と父がいた。母が食事の準備をし、父は机で新聞を読んでいる。うん、何とも平和な日々だ。  すると、お母さんが俺に鋭い視線を向けて言う。 「ちょっとノル。あんた神童なんだから、寝癖が立たない寝方くらいやったらどうなの」 「あれま…………次から頑張るよ」  まったくと呆れながらも食事の準備を続ける母。  頬を赤く染めながら、ぴょこんと立っている寝癖をサラサラ撫でる。ていうか、神童でも寝癖の立たない寝方なんてできないよ。もし仮にあったとしても、才能ではなく神童の無駄遣いだ。  すると、新聞を読んでいた父も俺の名前を呼んで文句を垂れ始める。なんか、新聞を見せてきた。異世界の文字は未だに読めないので何を書いているかは分からなかった。 「なんて書いてあるの?」 「おい、ノル~~。これは新聞なんだから、読めるようにしておけよ」  7歳児への要求が高すぎる。あと、新聞を神童みたいに言うな。  とこのように、俺は異世界に神童として生まれたのはいいのだが…………。  神童を何だと思っているんだ全く。  食卓においしそうなご飯が並ぶ。何ということだろう。そう毎回驚かされるのだ。  なぜなら、ザ、洋食なのだ。コッペパン、スライスエッグとレタスとベーコン、しまいにはコーンスープ。俺の想像していた洋食がそのまま出てきた感じ。  ここにフォークとスプーンが並んでいるのだ。もう、俺のイメージするフランスの朝食だ。まあ、強いて言えばパンはフランスパンが良かった。    いただきます。と心の中でつぶやいて、右手にナイフ、左手にフォークを持ち、レタスを切り分けようとした。  早く食べ終えて魔法の練習がしたいからだ。  すると、鋭い視線を母が向ける。 「ノル~~~。何度言ったらわかるの。右手にフォーク、左手にナイフですよ」  ああ。そうだった。魔法のことしか考えていなかった。  ここは一応、貴族の家なのだ。小さいながらにもメイドはしっかりといるし、毎朝朝食も出るのだ。それと同時に、ここは異世界でもある。何というか文化が違う。日本で通用していた文化がこの世界では通用しないのだ。  すると、父も机をバンと叩き、議論に入ってくる。ヤバい、二人がかりで怒られる。そう思った。 「何を言っているんだ母さん。朝ご飯は素手で食べる物だろうが!」  なんでお前まで文化が違うんだよ。異世界の住人同士は文化をそろえておけ。それ以前に家族なんだから文化をそろえておけ。 「何を言っているんですかお父さん。持ち方については…………(マジで長い文句)…………。」  終わった?お母さんの説教長すぎ。 「大体、あなたはいつもいつも…………(もう少し続くみたい)…………。」 「俺だってな~~~。いつも頑張っているんだぞ。あっと、えっと、そのだな。おら~~…………(語彙力が足りない文句)…………。」  そんなこんなで毎日のように喧嘩をしている二人。  喧嘩を止めないとな~~。そう思っていると、後ろから影のように声を掛けてくる。それは、メイドのリオだった。男子に着けられそうな名前の印象だが、しなやかで燃えるような長く赤い髪の毛のれっきとした女性である。 「早く二人の喧嘩を止めてください。ノル様」 「なんで俺に頼むんだよ。どちらかと言えばメイドであるリオさんの役割だろ」  すると、はぁとため息をつき、呆れとめんどくささの混じった退屈な表情をする。 「神童なんですから、メイドに仕事を押し付けないでくださいよ」 「これ絶対に神童関係ないからね」  「早くやってください。」 「いや、普通に無理だけど?」  普通に考えて、今にも殴り合いになりそうな喧嘩を止めるなんて無理だろ。もうすでに胸ぐらを掴み合っているし。どんどんヒートアップしていく。  すると、リオさんは首をがっくりとうなだれる。 「できないって…………あなたは何のために神童として生まれたのですか。」 「いや、少なくともこの喧嘩を止めるためには生まれてないから!」  なんで俺はこんなにも責められて、呆れられているのだろうか。  すると、自慢げに平らな胸を張ったリオさんが自慢げにのたまうではないか。 「仕方ありませんね。役立たずの神童のためにも私が二人の喧嘩を止めるしかないようですね」  そういって二人の元に意気揚々とかけていく。  しかし…………。 「なんだリオ、メイドの分際で私に歯向かおうていうの?」  母の明らかに怒っている声音。しかし、笑顔なのが逆に怖いな。 「なんだこの野郎~~」  お父さん~~~語彙力足りてないよ~~~。  そんな二人の叱責を受けて完全に縮こまってしまったリオ。涙目でこちらを見てくるのだ。  はぁ~~~仕方ないな~~~。  お母さんの元へ近づきスカートのすそをチョンチョンと引っ張る。そして、最大限にぶりっ子で言う。 「お母さんごめんね。いつも指導してくれているのに、うまくできなくて…………(頑張って日々の感謝と今回の謝罪を伝えた)…………。でも、いつもありがとう」 「ノル~~~~」  今にも瞳は大洪水。親ばかだな~~~。 「お父さんもいつもお仕事ありがとう」 「のりゅ~~~~」  うん、お父さんはこのくらいでも泣いてくれる。  親ばかな二人は俺の将来が楽しみだの話をしながら、礼儀作法を一切気にすることなくランランと食べ始める。  やっとの思いで食べられると思っていたら、めちゃくちゃ悔しそうな視線をリオに向けられたので、非常にご飯は食べづらかった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加