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専属メイドのルル
退屈だ~~~。
えらく広い部屋の隅。勉強机に座り、ペンをくるくる回しながら、問題を解いている。
しかし、まったく解けないから退屈なのではない。あまりに簡単すぎて退屈なのだ。それもそのはずで、俺は大学生、にもかかわらずこの世界の最高レベル問題は小学校6年生の基礎。
それを夏休みの宿題かのように出されたのだから溜まってもんじゃない。
母は笑顔で、「神童なんだからこのくらい余裕よね」と言っていた。
本当に神童をどう思っているのだろうか。
そして、俺の近くにいるメイドもまた宿題に取り組んでいた。身分を分けるためだろうか。俺の背後にあるちっちゃなテーブルで勉強をしていた。いや、どちらかと言えばちゃぶ台に近いかもしれない。しかし、納得がいかないことにこちらは平日出る課題程度。そんなの10分で終わるだろ。
ああ~~~~。早く魔法の練習したいのに…………。
メイドにやってもらおう。心優しくて忠誠心が鍛えられたメイドなら、素直にやってくれるはずだ。
手を二回ほどぱんぱんと叩いて、メイドのルルを呼び出す。しかし、勉強に集中しているのだろうか。呼んでも一向に来る気配がない。
さらに何度も手をたたいていると、「はぁぁぁぁ」と深いため息が聞こえてきた。流石に来るだろうと思っていたが、それでも一向に来る気配がない。このメイド大丈夫か?
しびれを切らした俺は、机を振り返り彼女の方を向く。
「おい、ルル呼んでいるんだけど?」
「ハイハイ、今行くます~~~」
やる気のない返事が返ってくる。距離にして2メートル。しかし、あまりにゆっくりと動くので、到着まで非常に時間がかかった。
「ごめんけど、魔法の練習がしたいんだ。代わりに宿題をお願いするよ。」
「分かったます。でしたら、炎魔法でぼぉっとしておくます。」
「うん、じゃあよろしく…………え?」
俺は純粋無垢な笑顔で答える彼女に疑問をぶつける。
「ちょっと待。僕は代わりに宿題をお願いするって言ったんだけど?」
「は~~い。いわら通り、代わりに処分したいと思うます。」
「ちょっと待て。そんなことをしたら俺がお母さんに怒られるじゃないか。」
「はい。私は怒られないだす」
このメイド主に対する配慮はないのか?
「メイドならもうちょっと主に気を使ってくれてもいいんじゃない?あと、だすは敬語じゃない。」
すると、目を細めて唇を尖らせる。なんだか、拗ねた子供のようだ。いや、拗ねた子供だな。
「俺は代わりに処理をするんじゃなくて、代わりに宿題をやってくれと頼んでいるんだ。」
「殺ってくれ?」
「違う。代わりに宿題をするの!」
すると、唇を尖らせて心底嫌そうな顔をする。
「だって~~めんどくさいどす。」
どすって、俺は京都にでも来たのかな?
それにしても、こいつ…………。メイドに向いていないな。
まあ、いいや所詮は子供お菓子で釣れば何とでもなる。
「じゃあ、交換条件だ。俺の宿題を代わりにやってくれたら、お菓子を上げよう。」
「お菓子か…………」
興味のなさそうな表情。別にお菓子は入れないぞと言っているようだ。
あれ?もしかしてお菓子あんまり好きじゃない?
すると、急に何かを閃いたような顔になる。
「わかったます。引き受けるごす」
ごす?それにしても奇妙なくらいに素直だな。まあいいや、魔法の練習し~~よう。
ルンルン気分で外に出る俺を、悪魔のような顔で見るルル。
魔法の練習を終えて、清々しい気持ちで家の扉を開けると、お母さんが待っていた。いや、待ち構えていた。
「ノル~~~。宿題やってから魔法の練習する約束だったよね?」
声の節々から怒りの感情が伺える。いや、声を聴かなくても鬼のような真っ赤に燃えた表情を見れば一目散だ。何なら、角が生えるのではないか?
「いやでも、宿題はやって…………はっ!」
あの時のやけに素直な反応がどうも気がかりだったのだ。すると、母は証拠を見せつけてくる。
「これを見てもまだそんなことが言えるの?」
それは俺に与えられた課題。そこに書かれていたのは、ルルの字で書かれていた答案ではなく、でかでかとうんこが書かれていた。それも明らかに幼稚園児の落書きの…………。
背筋に冷たい汗が流れる。青ざめた表情でルルの方を見ると、おいしそうにお菓子を食べながらしてやったり顔を向けてくる。
こいつ~~~~。マジでメイド向いていな~~い。
俺は2時間にわたる説教を受けるのだった。
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