子育て始めました

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「つまり本来の姿まで育てろと?」 「そういうことだ」  なんともあっさりした返事だけど、人間の赤ちゃんだって成長には何十年も育てないと大人にならないのに、何千何億と生きてる悪魔が成長するまでって私は死んでいるのでは。  一目会いたかったオリアスの為だけに私の人生全てを捧げるって、生贄とか交渉ない代わりの尋常じゃないリスクみたいになっている。  私の人生終了を意識したとき「まあ、一年だな」という言葉に視線を向ける。  なんの数字か尋ねれば、オリアスが元の姿と魔力を取り戻すまでにかかる期間だと話す。 「でも、悪魔は長く生きてて、赤ちゃんから育てるには私の人生でも足りないんじゃ」 「陣の影響でこの姿になってるに過ぎないからな。見た目は赤子だが、実際は違う。今は魔力がなくて本来の姿になれないだけだ」  それを聞いてホッと一安心したのも束の間。  人生全てを捧げなくて済んだとはいえ、オリアスが魔力を取り戻すまでの一年間は私が育てなければいけない。  つまり、最初に想像していた大学生で一児の母決定。  後悔しても既に遅い。  生贄や交渉がいらない代わりに高くついたこの代償。  ニコニコと楽しそうな赤ちゃんの笑顔が悪魔に見えたのは、気のせいなんかじゃなく本物の悪魔だから。 「腹が空いたな。捧げ物をよこせ」 「オリアスって見返りとかいらないはずだよね!?」  悪魔もお腹は空くらしい。  当然と言えば当然だけど、悪魔の召喚は普通、生贄を捧げて願いを伝える。  オリアスはそれが必要ないから良かったんだけど、共に暮らすなら話は別。 「捧げものって、まさか動物の……」 「いや、トマトジュース」  意外に可愛いかもと思ったことは口にせず、先程まで絶望していた気持ちが少し軽くなるが、まだ私は気づいていなかった。  トマトジュースを手に入れるには、外へ出なければいけないこと。  それには、この悪魔も連れて行かなければいけないことに。  実際は私より遥かに年上だとしても、見た目が赤ちゃんな悪魔を家の中に一人残していくには抵抗がある。  その後、赤ちゃんを連れてスーパーへと向かった私は、不運にも家を出て直ぐ近所の人に見られ、スーパーでは大学の友達に出くわした。  誤解がないように説明したくても、私がひとりっ子なことは、友達も近所の人も知っているから直ぐに噂になるだろう。  こうなったら一年間耐えるしかないと腹を括り、悪魔の子育てがスタートした。 《完》
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