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備蓄用のクラッカーと飲料水だけは山と与えられていた。
二階建て一軒家の一室は六畳間で、外矢切玖の部屋だった。玖はまだ九歳で最近は弟だって産まれた。お兄ちゃんになったのだ。
弟の父親と玖の父親はべつの人だ。新しい父親は金銭に余裕があるらしく、彼のおかげでこの家に引っ越してこられた。母親も新しい父親の前では嬉しそうにしている。
母親は玖とふたりでいるときにはなんだか不機嫌だ。もうお兄ちゃんなんだから、と事あるごとに言い玖に躾と称しては罰を与える。
嫌いなものを残した。物を壊した。言い訳をした。
その度に玖を鎖で繋ぐ。実物の鎖は重たいベッドの足に繋がっていて玖の力では動かせない。反対側の輪っかは左の足首についていて小さな錠前がかかっている。
むやみに長い鎖のおかげで自室の隣のトイレで用を足すことはできた。粗相されては面倒だと思ったのかもしれない。
もう三日が経っていた。ここまで長いのは初めてだったし、階下の生活音ひとつ聴こえてこない。というか同じく二階にある寝室には誰も来ていない。
自分以外は留守のようだとさすがに玖も気づく。自分をおいて出ていったのだろうか。それはないと思いたかった。いつ終わるのか、怖くて仕方がなかった。自分が悪いということはわかっている。玖は耐える。
自分が悪いはずだ。それでも、誰かに助けてほしかった。
そう思ったときだった。
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