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翌朝ーー
5000000という言葉の力に興奮が抑えきれずに、ろくな睡眠も摂れなかった
やっと眠りについた時、僕は大金を手に入れ豪遊する夢を見ていた
だが目を覚ましてみると
いつも通りの平凡で退屈な朝が訪れた
退屈でたまらないのに、時間には追われ続けている
何故ならもう既に時刻は朝の8時半、僕の出勤時間は8時。30分も遅刻してしまっているからだ
急いで着替え歯も磨かず家を飛び出して来たから鍵を掛けたかすらも定かではない
10分で辿り着くバイト先まで5分で着くスピードで走った
息を切らしながら到着すると、既に入荷のカーゴもバックヤードに入っていて品出しも完全に終わっていた
いい汗をかいたと言わんばかりの迫田君が歩いて来て声をかけてくる
「おはよう!珍しいね遅刻なんて!」
「ごめん、ちょっと昨日寝苦しくて眠れなくてさ…言い訳になっちゃうんだけど」
「ハハッ、そんな日もあるよね。でも店長には一応謝ってた方がいいと思うよ」
親切心で言ってくれたのだろうが、んなことわかっている
僕の方がベテランだぞ!チーフだからって偉そうにするなよ!
と胸中で叫んだ
バックヤードの奥のロッカールームに行くと店長が更に奥の事務室でパソコンをいじっているのが見えた
一応、ロッカールームの鏡で身なりを確認する。走って来て髪も服もグチャグチャだった
パパッと整えて店長に丁重に謝罪をする
「すみません!遅刻しちゃいました!!」
「お、来たか内海!お前昨日あんな話したから飛んだかと思ったよ!焦らすなよ」
半分本気で、半分冗談混じりに僕の肩を叩いた。一応気にかけてくれていた事が少し嬉しかった
「すみません…気を付けます」
「まあ迫田がほぼ全部やってくれたから礼を言っとけよ」
「わかりました」
なんだか凄く嫌な気持ちだ。昨日あんな話をきいてから迫田君に強い嫌悪感を抱いている
彼は何も悪くないのにただの逆恨みにも程がある
気持ちを切り替えるよう再度鏡を見て笑顔の練習をした
バックヤードを出てレジへ向かう
「迫田君、全部やってくれたんだってね!ありがとう」
必死に笑顔を作って言ったが自分でも引きつっているのがわかった
「僕ももうチーフだからね!皆のミスを補うのもチーフの仕事さ」
嫌味で言ったのか、冗談なのか、ただの本心なのかわからないがとてつもなく苛立ちを覚えた
言葉尻がいちいちカンに触るのは多分自分に余裕がないのと寝不足のせいでイライラしているからだ
現に彼はいつもと変わらない爽やかな笑顔を振りまいている
気にせず仕事に専念しよう!
「僕レジしとくね」
しかし、今日はやたらとお客さんが少ない。いつも朝は戦争と言われるほどの忙しさなのに…
「遅刻してごめんね、それにしても今日暇だね」
僕は隣のレジにいるバイトのアセンちゃんに話しかけた
アセンちゃんは中国人の女の子で歳は僕と同じくらいだった
切れ長の目で三つ編みを左右で高く括っている細身の女の子だ
中国人だが日本語はとても上手く気さくなのでバイト仲間からも親しまれている
「ンー、今日会社ヤスミラシヨ」
「え、そうなの?」
彼女のいう会社とは、うちの店舗の前に建つでかい外川産業のビルの事である
外川産業は日本でも指折りの大会社で、製造業だけでなく輸出入業や派遣業なども手を出しているらしい
そこの社員御用達のうちのコンビニは、そこが休みの場合かなり暇になる。だから土日は客の入りがかなり減る
しかし遅刻した日が暇だったのはまだ幸いだった。皆への負担も少なくて済む
店内清掃をしながらボーッと時が過ぎるのを待っている僕とアセンちゃん。迫田君は忙しなく商品チェックや陳列棚の整理をしている
漸く自動ドアが開いた時のメロディが鳴り、僕等は大きな声でいらっしゃいませと言いながら入り口を見た
すると来たのはついこないだクレームをつけに来たあの客だった
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