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「いいえ。あなたは神に、天使になると定められたのです。だれがどう思おうとも、神の意向に背くことはなりません。この世界に秩序をもたらして、人々の生活を豊かにしてくれるのは神なのですから」
僕のために、夜遅くまで働いてくれた両親。それなのに僕が、いなくなってしまうなんて。
抗議しようにも、力天使デュナミスは壮麗な翼を広げて、見えない力で僕を導く。
ちょうど冥界の柘榴が、それを口にしたペルセポネを冥界に捕らえたように。天界の天使の名を口にした僕は、天界へと連れ去られようとしている。
「僕は、行きたくないっ!」
天使は穏やかな香りをまといながらも、もう優しい目ではなく、光が結晶化したような鎖を取り出した。
「それでは、あなたも悪魔になるのですか」
「そんなわけない。ただ、両親にあいさつもできないなんて、あんまりじゃないか」
その言葉と一緒に、僕の翼の端が黒く変わり始めた。老婆の翼と同じ、つやのない漆黒。
「あなたも……同じことをいいますか……」
天使は羽を閉じて、僕の前に立った。その深いオリーブ色の目が、蛍光灯の光をきらきらと反射している。
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