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玄関の扉を開けると、目が合えばからんでくるという評判の老婆がいた。
西日に照らされた紫キャベツ色の髪はおしゃれだが、腰は曲がり、服は色あせて穴も開いている。そして手には、薄汚い壷。
冷たい風が吹き込み、電線がうなる音が聞こえた。
めんどうなことを言われるのかもしれない。帰ってもらおうと、扉に手をかけた途端、老婆に紙でふたをした壷を差し出された。
「ちょっと待ちなさい。あんたに天使をあげよう。今、寂しいと思っていたんじゃないかね?」
「そんなことありません」
僕は少しずつ扉を閉め始める。両親は夜遅くまで仕事をしているけれど、もう中学生だ。老婆に心配される必要はない。でも、天使というのは少しだけ気になった。
壷づめの天使。それがもし本当なら、ひとりぼっちの日常ともお別れだ。学校から帰ってからの留守番も、きっと何倍も楽しくなる。
「逃げてしまう前にこの壷を開ければ、ずっとそばにいてくれる天使があらわれる。ババアからの贈り物として受け取っておくれ」
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